新事業の設備投資による課税所得削減の注意点と具体例

新事業の設備投資による課税所得削減の注意点と具体例

日本では、課税される所得によって所得税率が高くなっていくため、収入が増えるほど所得税は割高になります。一方で、収入が同じでも控除額が異なれば課税される所得は変わります。

つまり、所得計算におけるポイントを理解し実践することで節税につなげることができるのです。

今回は、課税所得を下げるためのポイント二つを、具体例を交えて解説します。

この記事ではこんなことがわかります。

  • 所得控除を活用し、給与所得の課税所得を下げる
  • 減価償却費を利用し、副業の損益通算を行い課税所得を下げる
  • 具体例:不動産投資とコインランドリー事業

所得控除を活用し、給与所得の課税所得を下げる

所得控除を活用し、給与所得の課税所得を下げる

所得控除を正確に申請することで、給与所得の課税所得を減らすことができます。所得控除は複数ありますが、ここではその中でも扶養控除を紹介したいと思います。

なお、他の控除については国税庁の所得金額から差し引かれる金額(所得控除)をご覧ください。

扶養控除の条件

扶養控除を申告するには、次の二つの条件を満たしている必要があります。

  • 納税者が生活を支えている16歳以上、課税所得48万円以下の親族(同居別居の区別なし)
  • 他の人の扶養に入っていない親族

扶養控除は、生活費などを自分が負担している16歳以上で課税所得が48万円以下の親族がいる場合に申告できます。

扶養親族の条件に合えば、同居し生計を一つにしている場合はもちろん、一人暮らしの子供や別居しているご両親でも、生活費・学費・介護費用などを仕送りしていれば扶養家族として申告することができます。

ただし、誰の扶養にも入っていないことが条件となりますので、共働きの夫と妻の両方に子供を扶養として申告することはできません。また、ご両親を扶養に入れる場合も他のご兄弟などが扶養に入れていないことが条件です。

なお、健康保険の扶養は条件が変わりますので、加入している保険事務所に確認してください。

損益通算を活用し、損失を他の所得と相殺する

損益通算を活用し、損失を他の所得と相殺する

副業など給与以外に収入がある場合、副業の利益または損失を給与所得と相殺することができます。これを損益通算といいます。

※給与所得以外の所得も損益通算できますが、ここでは給与所得を例に挙げています。

所得税の算出では、所得を10種類に分けます。

それぞれの収入から必要経費や控除額を引いた各種の所得金額を計算し、利益よりも費用が多い所得は、その損失を給与所得と相殺することができるのです。

所得税は課税所得によって税率が決められています。

たとえば、課税所得が900万円超1,800万円以下の場合の税率は33%です。

この課税所得が、損益通算によって695万円超900万円以下になると、所得税率は23%に下がり、結果、所得税額も下がり節税となります。

なお、相殺できる損失は限られており、一部を紹介すると次のような所得になります。

事業所得

農業、漁業、サービス業など、事業をしている人の所得です。

必要経費には、売上原価・購入した機器の減価償却費・水道光熱費などを計上します。

収入に対して高額な設備投資をした場合、減価償却費を計上することによって費用が収入を上回る場合があります。現金を伴った出費ではありませんが、減価償却費を計上している期間は、決算書上の費用が大きくなるのです。

なお、減価償却費を計上する期間は、設備の種類によって法律で決められています。

不動産所得

アパートの賃貸収入や、駐車場の貸し出しをしている方の所得です。

必要経費には、固定資産税・都市計画税・不動産取得税、修繕費・損害保険料・減価償却費、土地や不動産の借入利子などを計上します。

前述の事業所得の減価償却費と同様に、建物や高額な設備を購入した場合に一定期間費用として計上します。また、ローンを組んで土地や建物を購入した場合、借入利子も高額になる場合があります。

これらの費用が家賃収入を上回ると、他の所得から差し引くことができます。

譲渡所得

土地や株式、ゴルフ会員権などの資産を譲渡したときの所得で、譲渡資産によって所得の計算方法が異なります。

土地や建物は譲渡所得から取得費と譲渡費用を引きます。ただし、損益通算ができるのは、居住用の不動産のみです。

投資用の不動産は他の所得とは分けて税金を払います。また投資用の建物の場合は、取得費から減価償却費を引いた現在価値から譲渡費用を引いて、譲渡所得を算出します。

株式は収入金額から取得費と借入利子、譲渡費用を引きます。

なお、株式の譲渡は納税方法を選ぶことができ、申告分離課税を選択した場合に損益通算を利用できます。

源泉徴収を選択した場合は、利益が出たときに税金も徴収されますので損益通算はできません。また、NISA、つみたてNISAを利用した場合も損益通算はできませんが、投資額が上限までの配当金と利益が非課税になります。

これら以外の資産は、譲渡所得から取得費を引きますが、50万円を越えた収益が課税対象になります。

損益通算による節税の具体例

損益通算による節税の具体例

事業所得や、不動産所得の減価償却費は大きな金額になることがあります。

この減価償却費を計上することで、損益通算を利用して給与の課税所得を下げられる可能性があります。高額な費用を一定期間計上するので、計上した費用が収入を上回り損失になることがあるのです。

損益通算を利用するメリットとデメリットは次のようになります。

メリット

  • 減価償却費を計上して損失が出た場合に、給与の課税所得を下げることが出来る。
  • 納税額を下げることで手元に現金を多く残すことができ、資産の有効活用が出来る。

デメリット

  • 高額のローンを組むことになるので、リスクが高い。

では、具体例として不動産投資とコインランドリー事業を挙げます。

不動産所得の例:不動産投資

一般的に不動産投資を始めるときは、ローンを組んで投資用のマンションなどを購入されると思います。購入価格には、土地と建物両方の費用が含まれていますが、減価償却費として計上できるのは建物部分の費用のみです。

土地購入用の借入金は利息分を費用として計上できます。ローン返済方法を元利均等方式にすれば、返済開始当初は利息の割合が大きくなるため、費用として計上できる金額が大きくなります。

結果として、事業の開始後は費用の額が大きくなります。この費用が家賃収入を超えた場合、給与所得と相殺できます。全体の所得が下がりますので、課税所得を下げることになるのです。

ただし、期間が過ぎていくとローンの利息部分が少なくなるので、所得税の節税効果が少なくなっていきます。また、減価償却期間が過ぎた後は、費用として計上できる金額が減ります。

時間の経過とともに節税効果はなくなりますが、家賃収入が安定していれば利益が出てきますので、継続して資産を増やすことが可能となります。

事業所得の例:コインランドリー経営

コインランドリーの初期費は大部分が設備費と言われています。一般に2,000~3,000万円かかるといわれている初期費のうち、設備費が7割程度占めているそうです。

投資額に対して減価償却費として計上できる金額が大きいので、他の事業に比べて利益を圧縮することが可能となります。

費用が利益を上回れば損失となり、結果、損益通算により給与所得と相殺できる金額が大きくなり得るのです。

またフランチャイズ経営であれば、損益通算による節税だけでなく事業運営のノウハウなどについて、本部のサポートが得られますので、より心理的な負担が少なくなると思われます。

まとめ

このように、損益通算を活用することで利益を出しながら節税をすることが可能になります。

しかし、紹介した減価償却での節税方法では、減価償却期間中は節税になりますが、減価償却が終わった後は費用計上できなくなるため、所得が増え納税額も増えます。

所得税の節税効果が得られなくなった後、その建物や事業をどのように活用するか、あらかじめ「出口戦略」を立てて運用することが必要になってきます。

利益が出ている事業であれば、売却をして資産を増やすことや、老後の安定収入として準備しておくことができます。

ですが、事業の損失が積み重なっている状況であれば、減価償却期間が終わるのを待つことなく撤退を検討しなくてはならなくなります。 節税効果だけでなく、ご自身が取れるリスクについてもきちんと把握し、そのリスクの中で投資を検討されてはいかがでしょう。

黒川一美

黒川一美

大学院卒業後、セールスエンジニアとしてIT企業に勤務。出産を期に退職し、お金を稼ぐ側から家計を守る側になり、お金の知識不足を痛感。また、実父の相続の際、資産を守ることの大変さ・大切さを実感し、お金の知識を得るためFP2級を取得。
お金の知識を深め、資産を守るお手伝いが出来るFPを目指している。
執筆:FPサテライト株式会社 所属FP 黒川一美

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