IT業界はもちろん、不動産、物流、医療、飲食など民間企業から各自治体までさまざまな分野で話題に上るようになってきた「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation 以降DXと略します)」。
デジタル化によって私たちの生活は大きく変わろうとしています。
この記事では、経済産業省が勧める産業界のDXと中小企業への影響を中心に書いていきます。
- 経済産業省のDX推進の取り組み
- DX投資促進税制の概略
- DX推進による中小企業への影響
目次
DXとは

「Digital Transformation」という言葉はさまざまな分野で使われています。まず、この言葉の定義をみていきましょう。
DXの言葉の意味
「Digital Transformation」を直訳すると「デジタル化による変化・変容」。
現在、デジタル化やIT化により新しい仕組みができ、生活面の利便性が高まっています。このようにデジタル化によってよりよい環境になることをDXと表しています。
なお、DXと略されるのは、英語圏内で「Trans」を「X」と略されることが多いためです。
経済産業省が推奨するDX

経済産業省では、行政の効率化に向けてDXを取り入れる仕組み作りをしています。ビジネスの変化の速さに対応するため、企業にもDXによるデータ活用を推奨しています。
経済産業省が定義するDX
平成30年に経済産業省がまとめた「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」では、DXを次のように定義しています。
“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること”
つまり、経済産業省の定義する「DX」とは「デジタル技術を活用した企業変革」です。
経済産業省のDXの取り組み
経済産業省ではDXの取り組みとして、IT化による手続きの簡略化を目指しています。
中小企業向けに「中小企業支援プラットフォーム構想」を掲げ、補助金の申請手続きなどをオンライン申請で行えるようにしました。また、一度入力した情報は他の手続きでも利用できる機能が取り入れられています。
今まで手続きのたびに何枚も書類を準備していた企業もオンラインで入力できるようになったことで、準備の手間が減るのではないでしょうか。
企業へのDX活用推進にも力を入れており、ガイドラインの作成や、全社的な取り組みを行う企業を対象にしたDX投資促進税制を制定しました。DX投資促進税制についてはのちほど詳しくご説明いたします。
企業にDXを推奨している2つの理由
経済産業省が企業にDXを推奨している理由は、大きく二つあります。一つは企業の競争力強化のためにデータ連携を活発化させること、もう一つは「ITシステムの2025年の崖」と呼ばれる問題を回避することです。
ITシステム2025年の崖は、平成30年に経済産業省がまとめた「デジタルトランスフォーメーションレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~」で語られた内容です。
このレポートでは、企業で使用している基幹システムやネットワークが老朽化してしまったことにより、さまざまな問題が起こる可能性があることを述べています。
- 人事給与、商品管理、会計システムなどの基幹システムは、会社ごとにカスタマイズされ、それぞれ専用のアプリケーションで作られていることが多く、連携されていない
- 長期間利用することで何度も変更されメンテナンスに負荷がかかる、担当エンジニアの退職などにより引き継がれていないケースもある
- その結果、改修に高額なコストがかかる、トラブル復旧までに時間がかかる
基幹システムが止まってしまうと、商品管理・販売管理などを行うことができず、企業経営そのものを停止させてしまうリスクもあります。
DXでは収集したデータを連携し、経営判断の材料として活用することが求められています。基幹システムが老朽化した状態では、データ連携どころか、保守費用の増大や経営停止の恐れがあります。
「ITシステム2025年の崖」を回避する指針について
ITシステム2025年の崖は、基幹システムがどのようなシステムだか分からない、ブラックボックス化してしまったことが問題となっています。
そこで経営戦略にもとづいてITシステム活用し、戦略を実行するために企業内の仕組みや体制を再構築するDXが必要となります。
経済産業省ではDX推進の指針となるよう「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」を制定しました。このガイドラインでは、経営層がリードしつつ、システム部門・業務部門と連携をとり、ベンダー企業とシステムを作り上げることが大切であるとしています。
- 経営者が主体となって自社の現在の業務に必要なシステム・不要なシステムを明確にする。業務部門の意向を中心にシステム部門と連携をとって選定する。
- 必要なシステムについては、全社的にデータの活用が出来るように再構築も検討する。
- ベンダー企業は技術面でのサポートのみとし、システム要件などは企業で決定する。
IT部門に人員を割けない中小企業では、基幹システム導入の際ITベンダー頼りだった企業が多いかもしれません。これらの指針を参考にしつつ、経営者は意識を変えていくことが重要だと考えられます。
DX投資促進税制を受けられる企業とは

企業全体で活用するDXに向けた計画を担当大臣に認定された場合、デジタル関連投資に優遇措置が取られることになりました。
認定要件
認定されるためには、デジタル要件と企業変革要件のすべてを満たす必要があります。
デジタル要件
導入するDXのIT技術の条件として、具体的に次の3項目が挙げられています。
- グループ会社や他の企業とのデータ連携、外部のデータをもとに同一企業でデータ連携している
- クラウド技術の活用
- 情報処理推進機構の審査によりDX認定の取得
企業要件
企業の取り組みなどの条件として、次の2項目が挙げられています。
- 全社の意思決定にもとづくものであること
- 一定以上の生産性向上を見込まれること
税制措置の内容
DXの導入費用のうち、次の設備に該当する金額をもとに税金の優遇を受けることができます。
- クラウドシステム移行の初期費用で繰延資産に計上できるもの
- DXに利用するソフトウェア
- クラウドシステムやソフトウェアと連携して使用する機械や備品
クラウドシステムの初期費用は繰延資産に計上できるものとなりますので、対象設備となるクラウドシステムはアプリケーションの開発やカスタマイズが必須となります。
アプリケーションまで提供されているクラウドサービスもありますが、こちらは使用料を費用計上するため、繰延資産にはなりません。
税制措置の具体例
DX投資税制措置の認定された場合は税額控除3%(外部と連携した場合は5%)、もしくは特別償却30%のどちらかを選ぶことができます。
例えば、100万円の設備投資を行った場合次のような減税額になります。
- 税額控除を選択した場合
100万円の3%である3万円を法人税額から直接引くことができます。
- 特別償却30%を選択した場合
100万円の30%である30万円を費用として計上できます。
本記事執筆時の2021年4月4日現在では、令和4年3月31日までの措置とされていますので、検討されている企業の方は期日にご注意ください。
経済産業省のDX推進による中小企業への影響

DX投資促進税制では、データ共有やクラウドシステム利用が必須といえます。このようなシステムを構築するのは、大手が対象だと思われるかもしれませんが、中小企業でもDXは推奨されています。
例えば、自社にIT専門の部門がいないためにベンター依存体質になっている企業の場合、経営者が自社の基幹システムがどのようなものであるか、全く把握していない可能性もあります。
中小企業でも「ITシステム2025年の崖」が存在しているのです。
もし、大掛かりなシステム変更が難しいのであれば、アプリケーションまで提供しているクラウドシステムを利用する方法も考えられます。ファイル共有、Eコマース、人事、勤怠など、さまざまなサービスがクラウド上で提供されており、比較的安価な使用料を支払うことで利用できます。
アプリケーション提供タイプのクラウドシステムでは、企業ごとのカスタマイズには対応されていませんが、どんなシステムを使っているかを把握できます。
サーバーやアプリケーションのメンテナスは、クラウドサービスを提供する企業が行いますので保守の手間がかかりません。ネットワークにさえつながっていれば、どこにいても共有データを利用できますので、テレワーク導入などに利用できる場合もあります。
中小企業の場合は、中小企業経営強化税制・中小企業投資促進税制という優遇税制もあります。もともとは令和3年3月31日まででしたが、2年延長され令和5年3月31日までとなりましたので、こちらも合わせて確認してみてはいかがでしょうか。
詳しくは経済産業省のページや中小企業庁のページを参考にしてください。
まとめ
経済産業省が推進しているDX。DXを推進するために投資促進税制も制定されました。
予算やシステム変更に伴う業務担当の負荷増大などを理由に、既存のシステムを長く使おうとされているかもしれません。
しかし、経営者が自社で使用しているシステムを知らないことは、トラブル時のリスクが大きいとも言えます。
DXは社会の変化にビジネスの変化を合わせていくデジタル技術です。この機会にできる範囲から少しずつDXを意識してみてはいかがでしょうか。