その経費、計上しても大丈夫? 経費計上の基本ルール~会社員・個人事業主・法人それぞれの注意点~

その経費、計上しても大丈夫? 経費計上の基本ルール~会社員・個人事業主・法人それぞれの注意点~

経費とは、事業をおこなう際に使用した費用を指します。しかし、事業で使用したからといって、すべての費用が経費として認められるわけではありません。

いかなる場合でも費用とは認められないものもありますし、事業を行っている主体が個人事業主なのか法人なのかによっても異なります。

この記事では、経費の基本的な考え方を説明しながら、会社員で副業を考えている方、個人事業主として事業を始められた方、法人化を考えている方へ向け、それぞれの立場で経費について注意すべき点についてまとめました。

この記事ではこんなことがわかります。

  • 経費計上をする際に注意すべき点
  • 個人事業主が注意すべき経費
  • 法人化した個人が注意すべき経費

経費計上を考える時に注意すべき3つのポイント

ポイント

個人で事業を始める際に、周囲から「個人で仕事をしていればなんでも経費で落とせる」といわれたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、その言葉を鵜呑みにしてしまうのは危険です。なぜなら経費を認めるのは個人ではなく税務署だからです。

計上した経費に不自然な金額があれば税務調査が入り、調査官に説明しなければなりません。そのような事態を防ぐためにも、経費計上できるものは何かをきちんと理解し、経費計上できない費用とは分別し管理を徹底しましょう。

事業で使用した費用を経費として扱う場合、以下の3つのポイントを抑えているか確認する必要があります。

  1. 事業の売上に直結するか
  2. 具体的な目的を説明できるか
  3. 領収書・レシートの保管が可能か

それぞれのポイントについて、具体的にみていきます。

1.事業の売上に直結するか

経費は、事業で収入を発生させるために必要な支出のことです。

収入のうち、経費が適用されるのは事業所得・不動産所得・雑所得の3種類。そして経費になるものは、事業内容に直結するものでなくてはなりません。

国税庁によると、必要経費として算入できるものは、以下の要件を満たす費用とされています。

(1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額

(2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額

「No.2210 やさしい必要経費の知識 | 国税庁ホームページ」より引用
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm

プライベートと業務が混在しがちな家事関連費(交際費、接待費、地代家賃、水道光熱費など)を必要経費にするためには、業務上明らかに必要であったことを証明する必要があります。加えて、使用頻度や割合から算出した根拠のある金額を提示しなければなりません。

つまり、事業に直結しないプライベートな支出や、根拠を証明できない費用は経費にすることはできません。

2.具体的な目的を説明できるか

すべての経費は、業務上どの部分に直結するかを説明できる必要があります。

経費を認めるのは税務署であるということを念頭に置き、税務調査時に聞かれた時にすべて具体的な内容を答えられるかをイメージしましょう。

以下の例をもとに、経費と認められる場合、認められない場合について説明します。

【例1】ライターが書籍を購入した場合

文章の書き方などの参考書は、業務上必要であると常識的に判断できます。一方、漫画や雑誌はどうでしょうか。一見プライベートなものに思われるものを、業務上必要であると証明するためには、雑誌のライター、漫画の評論家である等、証拠を提示する必要があります。

【例2】ライターが飲食店に入った場合

取材のために飲食店を利用した場合は明確な経費です。一方、人との会食はどうでしょうか。話した内容が事業内容に直結するもので、どのような目的があったかを証明できなければなりません。

このように個人的には必要なものだと考えていても、一般的に経費として認められるにはある程度の証拠が必要です。常に第三者の視点を持って判断し、記録を残しましょう。

3.領収書・レシートの保管が可能か

領収書やレシートなど、使用時期や金額について証明するものがない場合は、事業に必要な費用であっても経費として認められない場合があります。

店舗購入時には必ず領収書を発行、インターネット上で購入したものは領収書を自分で印刷するなど、必ず証明できるものを手元に残すよう心がけましょう。

また、具体的にどのような目的で利用した経費であるかを証明することも重要です。領収書がある場合は裏面や余白部分に、会計ソフトを使う場合はメモ欄に、使用用途を記入しておくと後々の証明になります。

なお、経費に関する書類(領収書やレシートなど)は、5年間保管する必要があります。

出典:国税庁ホームページ「記帳や帳簿等保存・青色申告」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/01_2.htm

事業主体によって変わる「経費」

事業主体によって変わる「経費」

会社員が使える経費「特定支出控除」

「会社員が経費を使えないなんて損だ」と考える方が時折いらっしゃいます。

実は、経費をしっかり管理することが出来れば、会社員が業務のために支出した費用を経費として申請できる制度があります。これが給与所得者の特定支出控除です。

給与所得者の特定支出控除によって控除される金額は「その年中の給与所得控除額×1/2」が上限となります。

例えば、年収300万円の人の給与所得控除は980,000円ですが、この控除額が会社員の実質の経費という捉え方をされます。

■給与控除額

給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額)            給与所得控除額
1,625,000円まで 550,000円
1,625,001円から 1,800,000円まで 収入金額×40%-100,000円
1,800,001円から 3,600,000円まで 収入金額×30%+80,000円
3,600,001円から 6,600,000円まで 収入金額×20%+440,000円
6,600,001円から 8,500,000円まで 収入金額×10%+1,100,000円
8,500,001円以上 1,950,000円(上限)

出典:国税庁ホームページ「No.1415 給与所得者の特定支出控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1415.htm

さらに、この980,000円の1/2にあたる490,000円を超える金額を使った場合、特定支出控除として申請することができます。申請できる具体的な項目は、通勤費・転居費・研修費・資格取得費・帰宅旅費・勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費等)となります。

経費を落としたいからと焦って副業を始める前に、これらに該当するものがないか確認してみましょう。

なお、申請をおこなう際「給与所得者の特定支出に関する明細書」に支出した金額や詳細な内容を記入する必要があるため、記録をしっかりと残しておきましょう。

個人事業主が注意すべき「経費」

1. 経費の二重申請になるもの

個人事業主になると、会社員より多くの費用が経費として処理できるようになります。しかし、何でも経費で落とせるようになるわけではありません。

経費として計上する際に思い返してほしいのが、開業届に記入した事業内容と事務所です。

開業届提出時に事務所を自宅に設定、かつ家賃を仕事場の賃料として経費に計上にしている場合、当然ながら自宅で業務にあたることが前提となります。

その前提のもと、自宅以外の場所で仕事をする場合、事務所の地代家賃・水道光熱費と、自宅以外で仕事をした際の飲食費が被っていないか、振り返りましょう。

例えば、自宅の地代家賃を経費計上しているにもかかわらず、家の近くのカフェを作業場にしている場合は、カフェでの飲食費が経費として認められない可能性が高いです。打ち合わせ等があった際には、その証明ができるものが必要です。

また、フリーWi-Fiを利用するために近所のカフェを利用している場合、経費で自宅の水道光熱費にWi-Fi料金などを計上することはできません。

特にノマドワーカーと呼ばれる働き方をしている人が個人事業主になった後、これらの被りがないかを確認しましょう。

2. 経費にならないものの支払い方

事業用口座と生活用口座を分けており、売上が貯まったら生活用口座へ移動している場合の注意点です。この場合は、定期的に生活用口座に移動させる金額も説明できるように、把握しておく必要があります。

この時の勘定科目は、事業主貸です。

事業主貸とは、事業用の現金を家計用に充てる場合に使用する勘定科目です。具体的には、生活費・家賃支払い・年金・税金・社会保険料を支払うための金額などがそれにあたります。

※出典:国税庁ホームぺージ「帳簿の記帳のしかた」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/kichou03.pdf

生活口座に引き落としている事業主貸の金額があまりに少ないと、他にも収入があり生活を保つことが出来ている。つまり、売上を隠ぺいしていると判断されてしまいます。

基本的な生活費は家計簿などを利用して金額を把握し、適切な金額を引き出しましょう。

法人で注意すべき「経費」

法人で扱う費用にも、経費計上する際に注意が必要なものがいくつかあります。

1. 経費扱いから外れるもの

個人事業主が法人化した場合の注意点です。個人事業主のときは経費にしていたが、法人化して経費と認められなくなるものがあります。

理由は、給与控除が発生するためです。

法人化すると会社の収入と経営者個人の収入は別扱いになり、経営者個人の収入は役員報酬として設定します。そのため、経営者個人は給与所得者となり、基本的な生活費は会社員と同様給与控除の金額に含まれるとみなされます。

具体的には、会社員の頃は経費として扱わず、個人事業主になって経費に計上していたもののうち、衣服や飲食代などがあたります。

今まで業務のために購入したものはすべて経費にしていた、という人は会社と個人の線引きをする必要が生じます。

2. 会社名義にすべきもの

法人化した場合、自宅の家賃や営業車を経費として計上するためには、所有物が会社名義である必要があります。理由は、経費は個人のための支出ではなく、会社のための支出になるからです。

例えば、個人事業主のときに自宅の家賃を経費として計上していた場合、法人化した後も引き続き経費計上したいのであれば自宅を会社名義で契約、つまり社宅にする必要があります。

法人化後の経費は、事業用と生活用の区別に加え、さらに法人と個人の区別という考え方が発生します。

まとめ

基本的に経費として計上できるものは、以下を満たす費用となります。

  • 事業に直結しているもの
  • 根拠を説明できるもの
  • 書類の保管をしているもの

反対に、事業とのつながりを証明できないものや生活費等のプライベートなものは、基本的に経費として認められません。また、個人事業主から法人に変わった場合、給与控除に含まれるものや法人名義ではない生活用品は、経費として計上できなくなります。

経費計上には厳格なルールが定められています。費用を経費計上する際は、こういった基本的なルールを念頭に置き、すべての取引において合理的な説明ができるよう心がけましょう。

荒木莉乃

荒木莉乃

フリーランスとして活動中、お金の知識の乏しさを痛感しFP3級を取得。
結婚後、夫婦共々保険や不動産のガツガツした人に弱く、上手く話に乗せられやすい性格であることを実感。
家計を守るためにFP2級、AFPを取得。
現在は複業在宅ワーカーとして、FPサテライト株式会社で活動している。

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