不要な出費を抑えて節税対策。確定申告時に確認したい10の所得控除

不要な出費を抑えて節税対策。確定申告時に確認したい10の所得控除

皆さんは、どのくらい税金を支払っているか把握されていますか?

日本では、累進課税という課税額が大きくなるほど税率が高くなる「累進課税」という仕組みにより、収入が多い人ほど支払う税金が多くなります。

せっかく働いたのに、手元に残る資産が少なくなってしまうのはもったいないと感じませんか?

この記事では、主に年収2,000万円を超える会社員の方に向けて確定申告の際、所得控除を正確に計上することで税金を下げる方法などを書いていきたいと思います。

この記事でわかること

  • 出費を収入の控除にできれば税金額が下がる
  • 所得控除できるものを活用して老後資金を準備すると節税効果が高い
  • 資産が余る場合は、生前贈与で相続税対策も効果的

課税所得が下がれば税金も下がる

課税所得が下がれば税金も下がる

まずは、納付する所得税額の算出方法について簡単に振り返ってみましょう。

納付する所得税額は、収入から必要経費や法律で決まっている控除額を引いたものに税率をかけて算出します。所得税の場合、この税額を計算するために必要な金額を課税所得といいます。

同じ収入でも、必要経費や控除額によって課税所得が変わります。例として、年収2,000万円の会社員と個人事業主の課税所得と所得税額を比較してみましょう。

なお、ここでは単純な比較のために必要経費と基礎控除のみを使用して計算をしています。

年収2,000万円の会社員の場合

会社員の方の必要経費分は、法律で決められた給与所得特別控除を使います。控除額は収入によって決められており、国税庁の「給与所得控除」のページに記載されています。年収2,000万円の場合は195万円です。

次に、収入から次の控除額を引いて課税所得を求めます。

  • 給与所得控除 195万円
  • 基礎控除 48万円

2,000万-195万-48万=1,757万

課税所得は1,757万円となります。

この課税所得にかかる所得税額は国税庁の「所得税の税率」のページを参考に、次のように計算します。

17,570,000×0.33-1,536,000=4,262,100

所得税額は4,262,100円となります。

個人事業主(白申告者)の場合

事業を行うための必要経費が500万円だった場合、必要経費と基礎控除はそれぞれ次のようになります。

  • 必要経費 500万円
  • 基礎控除 48万円

課税所得は、収入から必要経費と基礎控除を引いて、

2,000万-500万-48万=1,452万

課税所得は1,452万円となります。

この場合の所得税額は次のように計算します。

14,520,000×0.33-1,536,000=3,255,600

所得税額は、3,255,600円となります。

同じ年収でも、必要経費が大きいと納付する税額が少なくなりますね。この例では課税所得の差が約300万円あり、税率が33%なので税金額としては約100万円の差になりました。

所得税控除を活用するポイント

所得税控除を活用するポイント

では、次に課税所得を減らす方法について考えてみましょう。

必要経費や控除額が大きくなると課税所得が減りますので、出費が多くなると税金が少なくなる可能性があります。

しかし、税金を少なくするために必要以上の出費をしてしまうと、節税できる金額より支出が大きくなってしまい、結果として家計がマイナスになってしまうこともあり得ます。

効果的に節税するために大事なことは、次の2つです。

  • 必要な出費そのもので控除をする
  • 所得控除ができる資産運用を活用する

出費そのもので控除をする

前述の課税所得の例では、基礎控除しか計算に入れませんでしたが、実際には他にも控除できる項目があります。生命保険料などが一般的ですが、控除額が大きくなる可能性があるものに次のようなものがあります。

所得金額から控除できるものについては、国税庁の「所得金額から差し引かれる金額(所得控除)」のページに一覧がありますので、こちらも参考にしてください。

医療費控除

1年間に支払った医療費から保険などで支払われた金額を引いて、10万円を超えた分が控除できます。

医療費控除は自由診療の一部も控除対象になるのが特徴です。条件にもよりますが、子供の歯科矯正、出産費用などがその一例です。また、バスや電車を使って医療機関へ通った場合の交通費も控除の対象となります。

たとえば、子供の歯科矯正に90万円支払っていた場合、80万円を所得金額から控除できます。

雑損控除

生活必需品が盗難や災害にあった場合に利用できる控除です。控除額は損害金額などにより、次の二つのうち大きい金額を採用します。

  • (損害額+災害による撤去作業費など-受取保険金)-(総所得金額)×10%
  • (災害による撤去作業費など)-5万円

たとえば、地震などで家が壊れて撤去した場合では、壊れた部分の価値と解体費用の合計と受け取った保険金をもとに算出します。

特定支出控除

会社員の場合、必要経費は決まった金額とご紹介しました。しかし、大きな金額を支払っていた場合には「特定支出控除」という項目で計上できる場合があります。

会社が費用だと認めたものが対象となりますが、給与所得控除額の半額以上支払った場合に計上できます。年収2,000万円の方の給与所得控除額は195万円ですから、97万5,000円以上の場合に対象となります。

対象となる費用は次のようなものがあります。

  • 単身赴任や、転勤など仕事の都合で引っ越した場合の引っ越し費用
  • 単身赴任であれば、家族に会うための交通費
  • 職務に直接必要な研修受講や資格試験に関わる費用

(出典:国税庁「令和2年分以後の所得税に適用される給与所得者の特定支出の控除の特例の概要等について(情報)」別冊2【第1解説編】 2021年6月6日確認)

もし、これらの大きな出費をした場合は、特定支出控除に計上できるか確認してみると良いでしょう。

副業している場合は青色申告の個人事業主として登録する

お勤めの企業で副業を認めている場合に利用できる方法です。

フリーランスなどで副業をしている場合には、確定申告の際に青色申告にするだけで控除額が増える可能性があります。

青色申告にした場合、事業所得・不動産所得・山林所得のいずれかであれば、最大65万円の青色申告特別控除を計上できます。青色申告特別控除は所得控除となります。

特別控除のない白色申告よりも、控除額の大きい青色申告の方が節税効果が高いといえます。ただし、65万円の控除を受けるためには、複式簿記に則り記帳する・貸借対照表と損益計算書を期限内に提出する等の条件があります。

また青色申告の特例で、事業に関わっている配偶者や家族の給与を全額経費にできるケースもあります。

条件は、従業員となる15歳以上のご家族が他に働いていないこと、常識的な賃金であることです。

専業主婦(夫)の配偶者が副業を手伝っているのであれば、給料を支払ってその分を経費に計上できる可能性があります。給与を支払っても家計は同じですから、家計全体でみるとマイナスにはなりません。

年収2,000万円を超えると配偶者控除等が利用できませんので、配偶者が他で働いていないなら検討しても良いかもしれません。

また、個人事業主として自宅で働いている場合、自宅で使用している費用の一部を経費として計上できる場合があります。

たとえば、自宅でWebマーケティングの仕事をされていたら、インターネットを利用したり、自宅の一部を作業スペースとして使用すると思います。

仕事で使用する通信費や、自宅が賃貸であれば作業スペース分の家賃、副業に使う機材の購入費などを経費に計上できます。

費用として計上するためには、仕事にどのくらい利用しているのかを証明することが必要ですので、仕事をしている時間や、仕事場は家のどのくらいの広さを使っているか、などを記録しておく必要があります。

家賃や通信費は副業をしていなくても支払っている費用ですから、家計の一部を経費として計上しているイメージですね。

住宅ローン控除を使って所得税そのものを減らす

控除を受ける年分の合計所得額が3,000万円以下の個人が住居を住宅ローン等を利用して購入、リフォームしたときに使える制度です。

この控除は、配偶者控除や生命保険料控除とは違い、所得税額そのものを減らすことができます。

なお、控除できる金額や期間は購入時期により異なります。詳細は国税庁の「住宅借入金等特別控除」のページをご覧ください。

たとえば、控除額の上限が40万円になる要件を満たしていて、年末ローンの残高が3,000万円の場合、その1%にあたる30万円分所得税額を減らすことができます。

所得税率33%の場合でしたら、約100万円の必要経費を計上したことと同じになりますね。

所得控除できる資産運用を活用する

年金用資金は、小規模企業型共済等掛金控除に計上できるものがあります。小規模企業型共済等掛金控除は、所得控除となるので課税所得を減らすことが可能です。具体的には次のようなものがあります。

確定拠出年金の特徴

  • 企業型のマッチング拠出と個人型(iDeCo)がある。
  • 拠出できる金額の上限は働き方によるが、全額を所得控除にできる。
  • 運用時の運営益も非課税
  • 60歳まで引き出すことはできない。

小規模企業共済の特徴

  • 小規模企業の経営者や個人事業主が積み立てで退職金を準備する仕組み。
  • 掛金をすべて所得控除にできる。
  • 資金繰りに困ったときには掛金をもとに借入れができる。

生前贈与による相続税対策

生前贈与による相続税対策

これまでは、ご自身の所得税額を減らすことを考えてきました。

もし、リタイア後の資産が確保されているのであれば、生前贈与で相続税対策を視野に入れてはいかがでしょう?贈与税の非課税枠を利用することで、ご家族に非課税で資金援助ができるだけでなく、相続時も相続税を少なくすることができます。

ご本人の税金には影響はありませんが、残されたご家族の生活のために相続税を少なくできるメリットがあります。

贈与税の非課税枠は子や孫への住宅資金援助・結婚資金援助・教育資金援助、配偶者への住宅資金援助などに利用できます。ここでは概要のみご紹介しますので、条件等の詳細は国税庁の「贈与と税金」のページをご覧ください。

住宅資金援助

令和3年12月31日までの間に父母や祖父母から新築住宅購入や、増築費用のために資金を受け取った場合、一定の要件を満たすと贈与税が限度額まで非課税となります。非課税枠は、条件によりますが最大で3,000万円となります。

結婚・子育て資金の援助

令和5年3月31日まで結婚資金や子育て資金の援助を受けることができます。非課税枠の上限は結婚・子育て資金の合計1,000万円まで(うち、結婚資金としては300万円まで)となっています。

教育資金の援助

令和5年3月31日まで、最大で1,500万円の援助を非課税で受けることができます。適用を受けるためには、金融機関等の営業所等を経由して教育資金非課税申告書を提出する必要があります。

配偶者への住宅資金援助

婚姻期間が20年以上の夫婦が利用できる制度です。居住用の不動産または居住用の不動産取得のための資金を贈与する場合、贈与税の基礎控除110万円のほかに2,000万円まで控除できます。

まとめ

収入が多い方は、所得税率が高くなり支払う税金も高くなります。その一方で控除額に対する節税効果も高くなります。

所得控除は納税者が申告しなければ適応されません。確定申告の際、所得控除を正確に申告することで所得税額が少なくなる可能性があります。

不特定に発生する出費が控除対象になっているケースもありますので、確認してみると良いでしょう。

黒川一美

黒川一美

大学院卒業後、セールスエンジニアとしてIT企業に勤務。出産を期に退職し、お金を稼ぐ側から家計を守る側になり、お金の知識不足を痛感。また、実父の相続の際、資産を守ることの大変さ・大切さを実感し、お金の知識を得るためFP2級を取得。
お金の知識を深め、資産を守るお手伝いが出来るFPを目指している。
執筆:FPサテライト株式会社 所属FP 黒川一美

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