老後の資金準備にも!個人事業主がおさえたい3つの控除と節税対策

老後の資金準備にも!個人事業主がおさえたい3つの控除と節税対策

個人事業主は退職金や厚生年金がもらえる会社員とは違い、事業引退後の生活資金は自分で計画を立てて準備する必要があります。

その一つの手段として、節税によって確定申告時の納税額を減らし、手取り金額を増やすことがあります。

この記事では、老後の生活資金をどう準備しようかと考えている個人事業主の方へ向け、老後の資金準備をしながら節税もできる方法をお伝えします。

毎年の節税を、廃業後や老後の資金につなげましょう。

この記事ではこんなことがわかります。

  • 個人事業主が知っておきたい3つの控除
  • 節税に直接関わる寄付金控除と青色申告控除
  • 老後の資金準備に直結する所得控除

節税のポイントは控除を使い所得を減らすこと

節税のポイントは控除を使い所得を減らすこと

各種税金は、所得金額に対して税率をかけます。

  • 収入金額…売上のすべて
  • 所得金額…売上から経費を引いた純利益

所得金額を減らすために収入から引くことができるものは、経費と控除です。

今回は個人事業主が知るべき控除を中心に、節税効果の大きい4つの方法を解説します。

1.寄附金控除

寄附金控除

近年人気のふるさと納税に限らず、各自治体や特定の団体への寄附金は控除の対象となります。

毎年1月1日から12月31日までの間に、国や地方公共団体、あらかじめ決められた非営利団体に寄付を行うと、その寄付した金額または、その年の総所得金額等の40%相当額のいずれか低いほうから2,000円の自己負担額を引いた金額が「寄附金控除額」となります。

算出された寄附金控除額を確定申告することで、所得控除または税額控除がされ、所得税は、確定申告時に納税額が減額または還付されます。住民税は、次年度に請求される納付金額が少なくなります。

寄附金控除のなかでも知名度が高いふるさと納税では、所得控除の対象となる限度額が収入によって決められています。この額は各ふるさと納税サイトで試算することができます。

また、ふるさと納税を行った場合は、寄付先の自治体より寄付金額に応じた返礼品をもらえることがあります。

具体的な商品としては、地域の特産品やお米、野菜などの食品が人気です。それ以外にも、2,000円程度で購入できるレトルト商品や、家電や調味料、トイレットペーパーなどの生活必需品もあります。

税金をただ納めるよりも、その金額で食べ物や娯楽商品を得ることができお得感を感じるためか、非常に人気な制度となっています。

なお、ふるさと納税後の確定申告では、寄附金証明書などの書類の添付が必要となります。各自治体から送られる寄附金証明書は、きちんと保管しておきましょう。

2.青色申告控除

青色申告控除

個人事業主の確定申告方法は、下記のいずれかに該当します。

  • 白色申告(10万円控除)
  • 青色申告(10万円控除)
  • 青色申告(55万円控除)※電子申告等要件を満たした場合は65万円

確定申告方法は、ご自身の事業規模などに応じて決めるのがよいとされています。

しかし事業規模は十分にもかかわらず、単に簿記の知識がないからと白色申告を続けていると、青色申告の55万円控除は当然受けられず、結果損をしている可能性があります。

青色申告で55万円控除を受けるためには、複式簿記での記帳が必要など要件を満たす必要があります。

現在は、複雑な複式簿記での記帳や書類作成を簡単に行えるクラウド会計ソフトの導入が進んでいますが、「専門用語が難しそう」「青色申告会の年会費がかかる」との理由から導入を避けてしまう方が散見されます。

しかし、簿記の知識に詳しくない個人事業主であっても、十分青色申告での対応が可能です。

白色申告時の知識で入力可能

青色申告は提出する書類が多く、準備が難しいと感じるかもしれません。

しかし、今まで白色申告をしてきた方には基本的な経費や仕訳の知識がありますし、青色申告でも必要な知識はそれほど変わりません。経費の計算や、家事関連費の按分などの基本的な知識で対処可能です。

また、クラウド会計ソフトの中には、青色申告に必要な書類がすべて自動で作成されるサービスが提供されています。

年会費以上の節税効果がある

青色申告55万円の控除が適用されたとき、青色申告会の年会費以上に減税される可能性があります。

例えば、所得金額が195万円以下(所得税5%、住民税10%)のケースです。

白色申告で10万円の控除を受ける場合、所得税  住民税を合わせて67,500円を納めることになります。

一方、所得金額から青色申告控除55万円が控除されると、10万円控除との差額である、

所得税 45万円×5%=22,500円、住民税 45万円×10%=45,000円が節税となります。

仮に20,000円の年会費を払ったとしても、約47,500円は手元に残ることになります。

このように、青色申告控除の55万円という額は、大きな節税効果があるのです。

さらに、帳簿等を電磁的記録で備え付けおよび保存(電子帳簿保存)をしている場合や、e-Taxによる申告(電子申告)を行っている場合には65万円の控除が受けられます。

以上の2点をふまえて、青色申告と会計ソフトの導入を検討してみてください。

3.所得控除

所得控除

個人事業主は、基本的には国民年金を納め、老後に老齢基礎年金をもらうことになります。令和2年度の老齢基礎年金支給額は満額で約78万1,000円ですが、ご自身が支払った国民年金の納付月数によって実際にもらえる金額は変わります。

また、老後に必要となる生活費の平均として、

  • 高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上・妻60歳以上の無職世帯)は239,947円
  • 高齢単身無職世帯(60歳以上の単身世帯)は139,739円

※ 参考:総務省統計局 家計調査報告ー家計収支編

がかかるとされています。

退職金や厚生年金のない個人事業主は特に、自分がいくら老齢基礎年金をもらえ、その金額だけで生活していけるかどうか、よく確認する必要があります。そのうえで、貯蓄目標金額の目安を把握しましょう。

貯蓄目標金額の目安が把握できたら、実際に貯蓄をしていくことになりますが、全額貯金だけで貯めていくのは難しい場合があります。

その、貯金では足りない分を補填するために利用できる、2つの所得控除制度をご紹介します。

iDeCo(個人型確定拠出年金)

投資先:iDeCo運営管理機関

限度額:最低5,000円から68,000円まで

iDeCoのそもそもの目的は節税ではなく、老後資金の準備することにあります。

個人事業主の方はなにも対策しなければ、国民年金から支給される老齢基礎年金のみになります。その老齢基礎年金に上乗せできる私的年金の制度の一つが、iDeCoです。

また、iDeCoに拠出した掛金は全額所得控除の対象となるため、節税効果があります。

例えば、所得金額が195万円以下(所得税5%、住民税10%)のケースです。

最低金額である毎月5,000円(年額60,000円)をiDeCoに拠出した場合、掛金60,000円全額が所得控除の対象となり、60,000円×5%=3,000円の節税となります。

残りの57,000円はiDeCo内で投資され、老後受け取るお金に変化します。

しかし、60歳まで引き出せないリスクや元本割れリスクを恐れるあまり、制度の利用を避けてしまう方がいらっしゃいます。

しかし、次に挙げる二つの対処方法を行えば、これらのリスクを減らせる可能性があります。

対処法1:無理のない金額を拠出する

iDeCoによる所得控除は気になるが、原則60歳まで引き出せないため、途中で資金繰りが苦しくなった時に対応できなくなるという理由で、利用を躊躇している方もいらっしゃるかもしれません。

そこでおすすめしたいのが、掛金をできるだけ少額に設定することです。

自営業や個人事業主の場合、月額6万8,000円(年額81万6,000円)を上限に掛金を拠出できます。掛金が多ければ所得控除の対象金額も多くなるため、上限まで拠出しようと考えがちですが、ご自身の収入や資金繰りを考えできるだけ無理のない金額に設定するのです。

また、iDeCoの掛金は年1回に限り変更することが可能です。その年の収入などに合わせ掛金をこまめに見直すことで、必要な資金が手元にない状況は避けることができるのではないでしょうか。

なお、原則60歳まで解約ができないiDeCoですが、以下に挙げる支給要件を満たした場合は解約し、脱退一時金を受け取ることができます。

<支給要件>

  1. 国民年金の第1号被保険者のうち、国民年金保険料の全額免除又は一部免除、もしくは納付猶予を受けている方
  2. 確定拠出年金の障害給付金の受給権者ではないこと
  3. 通算拠出期間が3年以下、又は個人別管理資産が25万円以下であること
  4. 最後に企業型確定拠出年金又は個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入者の資格を喪失した日から2年以内であること
  5. 企業型確定拠出年金の資格喪失時に脱退一時金を受給していないこと

※1.の要件は、日本国の国民年金保険料の免除を受けていることが必要であり、外国籍の方が帰国後に国民年金の加入資格がなくなった場合は、これに該当しません。

引用:iDeCo公式サイト 加入者の方へー 死亡一時金の請求手続きについて

もっとも、iDeCoの所得控除は老後の準備に対する優遇措置であるため、解約をすれば受けることができなくなります。また、脱退一時金の支給要件を満たすのは難しいこともあります。

税制優遇にだけ目を向けるのではなく、ご自身の収入やiDeCoの仕組みをきちんと理解し、できるだけ無理のない掛金を拠出するように設定しましょう。

対処法2:元本割れしない投資商品が選ぶ

投資商品は元本割れするから手を出したくない、と思う方も多いのではないでしょうか。

2019年の勤労世帯の貯蓄内訳データによると、通貨性預貯金・定期性預貯金を合わせて62.8%を占めるのに対して、有価証券はわずか10.9%でした。

参考:総務省統計局 家計調査報告(貯蓄・負債編)-2019年(令和元年)平均結果-(二人以上の世帯)

このデータからも、多くの方が元本割れリスクを取ることを避けていることがうかがえます。

しかし、iDeCoでは元本割れをしない預金型や保険型の商品の取り扱いがあるため、安全に資産を増やしながら節税できるメリットがあります。

取り扱う商品は金融機関によって異なるため、まずは各金融機関のサイトを確認しましょう。

小規模企業共済

預入先:中小機構

限度額:1,000円から7万円までの範囲内(500円単位)

小規模企業共済は、個人事業主のための退職金制度で、掛金の金額分が所得から控除されます。また、65歳以上から受け取る老齢給付のほかに、事業を廃業して解約した場合は一括受け取りが可能です。

ただ、以下のケースで元本割れをするリスクがあることを把握しておきましょう。

・加入後12ヵ月未満で解約する場合

・加入期間が20年未満で、廃業ではなく任意解約という方法で解約をした場合

実際にご自身の所得金額に対して節税効果があるか、また掛金をいくらにするか考えるときには、中小機構の公式ホームページの加入シミュレーションを利用すると良いでしょう。

参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構HP

4.その他の控除

その他の控除

家族がいる方は、家族の人数や今後の計画などによって利用できる控除があります。

  • 配偶者がいる場合:配偶者控除、または配偶者特別控除
  • 16歳以上23歳未満の子どもがいる場合:扶養控除
  • 70歳以上の親族を扶養している、または70歳以上の父母、祖父母と同居している場合:扶養控除
  • 家族の医療費が合計10万円を超える場合:医療費控除
  • 民間の生命保険や医療保険、年金保険を契約している場合:生命保険控除
  • 住宅購入した場合:住宅ローン控除

ここに挙げた以外の所得控除や税額控除もありますが、すべての控除を安易に利用しようとすると、逆に不要な出費をしてしまう可能性があります。

ライフプランや家計を長い目で見直し、計画的に考えることが重要です。

まとめ

個人事業主の節税に、老後の資金準備という考えを取り入れる方法をご紹介しました。

個人事業主でなくても利用できる制度や控除もありますが、青色申告の55万円控除のように事業を行っているからこそ利用できる控除もあります。

少しの知識と手間で今以上に節税でき、老後の資金を増やすことができる制度を、ぜひ活用していってください。

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荒木莉乃

荒木莉乃

フリーランスとして活動中、お金の知識の乏しさを痛感しFP3級を取得。
結婚後、夫婦共々保険や不動産のガツガツした人に弱く、上手く話に乗せられやすい性格であることを実感。
家計を守るためにFP2級、AFPを取得。
現在は複業在宅ワーカーとして、FPサテライト株式会社で活動している。

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