コインランドリー経営をされている方、あるいは余剰資金でコインランドリー経営を検討されている方にとっては、経営を行う上で税金対策は重要なテーマではないかと思います。
現在、ライフスタイルの変化などに伴ってコインランドリーに対する需要が拡大しており、法人・個人を問わず、良い立地でコインランドリー経営を始める事例が出てきました。
しかし、市場の拡大に乗じてコインランドリー経営を開始しても、その後の税金対策を行っていなければ純利益が減少してしまいます。
コインランドリー経営に興味を持ち開業される場合でも、節税対策としてコインランドリー経営を行う場合でも、良い経営にはある程度の税金制度の知識が必要といえるでしょう。そこで、コインランドリー経営に適用される税制優遇制度、会計上での取扱いなど、コインランドリー経営で注意すべき税金対策について分かりやすく解説していきます。
- コインランドリー投資による税金対策の仕組み
- 税金対策のメリット・デメリット
- 個人事業主・法人が投資する場合の事例
目次
コインランドリー経営とは?

まずは、簡単にコインランドリー経営について説明していきます。
在庫不要ビジネス
コインランドリー経営は、いわゆる在庫不要ビジネスです。
一般的に、在庫を持つことはビジネス上の大きなリスクとして認識されるので、在庫不要のコインランドリー経営は在庫リスクを抑えたい方に合った経営手法です。
その代わりコインランドリー経営を成功させるためには、コンスタントな利用客の獲得が重要となります。良好な立地、近辺の世帯層、駐車場の有無、同地域でのコインランドリー数など、注意すべき点がいくつかあります。
経営を開始する前に、成功要因を分析し運営の具体的なイメージを持つことができれば、予測の難しい在庫の増減に振り回されない安定した経営を実現することも可能ではないでしょうか。
初期費用と維持費
コインランドリー経営に必要とされる初期費用は、洗濯機や乾燥機の台数にもよりますが、おおよそ2,000〜3,000万円程度と試算されます。※FPS調べ
投資としては大きな金額ですので、開業する前に良く吟味するとよいでしょう。
また開業後の維持費については、コインランドリーの稼働に必要な光熱費、無人経営でない場合の人件費、洗剤を含む雑費などが発生しますが、初期費用に比べて少額です。
初期費用を回収する期間を試算し維持費について削減できるところは削減するなど、少しでも多くの利益を得るための対策を前もって考えておくといいかもしれません。
将来性
冒頭でも説明した通り、コインランドリーの需要は今後も増えると予想されます。
単身世帯の増加、ライフスタイルの変化、シェアリングエコノミーなど、市場拡大の背景には様々な要因があると考えられます。当分の間は魅力的な市場となるでしょう。
ただ競合が増えてくると、差別化をしなければなりません。
技術の高い最先端の洗濯機を導入したり、洗濯の仕上がりオプションを増やしたりなど、市場の動きに合わせて経営も少し工夫することが必要です。
しかしコインランドリー経営の将来性を正確に予測することは不可能です。
立地や価格などの経営条件が揃えば需要の拡大とともに利益が上がることが期待できますが、需要が低迷すれば利益を得られないリスクがあることも認識しておきましょう。
コインランドリー経営の税金対策

次に、コインランドリー経営に係る税金制度についてご紹介します。
本章で紹介する各種制度は最低限押さえておきたい優遇制度であり、コインランドリーの経営主体の違いによって最適な制度も変わる可能性があることにご留意ください。
税金額を抑えられる仕組み
コインランドリー開業の際に購入した洗濯機器や基礎工事費などの費用は設備投資に当たります。
通常、設備投資は耐用年数に応じて一定額(一定率)で減価償却されますが、経費の損金算入および税額控除の特例、課税率の緩和措置などを受けることで節税することができます。
収入が大きくなってしまった年は、初期費用が比較的大きなコインランドリーの開業を上手く活用することで節税効果が期待できます。
例えば税制優遇制度を利用した損金算入の場合は税額を計算する所得金額を減らすことができ、税額控除の場合は法人税そのものを減らすことができます。
コインランドリー機器の法定耐用年数は13年です。
税制優遇制度を利用しない場合、経営開始初年度は設備投資額を13年で割った額が一年間の損金対象額となるため、その年の収入が大きい場合は支払う税金額をあまり抑えられません。
節税対策のためにコインランドリー経営を行う場合は、適合要件や提出書類など、利用できる税制優遇制度について事前に調べておく必要があります。
主な税制優遇制度
コインランドリー経営の税金対策として、例えば、以下のような制度を利用することができます。
中小企業経営強化税制
青色申告書を提出する一定の中小企業者等が経営力向上のための設備投資を行う場合、その事業年度において設備投資費用の即時償却または税額控除が認められる制度です。
適用対象者は「資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人および中小企業等協同組合等」「常時使用する従業員数が1,000人以下の法人または個人事業主」「協同組合」など。
また制度の適用期限は平成29年4月1日から令和5年3月31日です。
即時償却(全額)か税額控除(7%または10%)のどちらかを選択することができ、税額控除でその事業年度に控除しきれなかった分は1年間の繰越しが認められています。
所得金額、法人税率、設備投資費用などを考慮して税額を試算し、より節税が期待できる方法を選択しましょう。
中小企業投資促進税制
青色申告書を提出する一定の中小企業者等が生産性向上等を目指し設備投資した場合、特別償却または税額控除を受けることができる制度です。
適用対象者は中小企業経営強化税制の対象者と同様で、制度の適用期限は令和5年3月31日までとなっています。
特別償却(取得金額の30%上乗せ)か税額控除(7%)を選択することができますが、資本金3,000万円以上の中小企業については特別償却のみの適用となります。
税額控除でその事業年度に控除しきれなかった分は1年間の繰越しが認められています。
中小企業等経営強化法の認定なしに活用できる税制であり、上記の中小企業経営強化税制が適用できない場合に当制度を活用することも一つの選択肢として挙げられます。
先端設備等導入計画に基づく固定資産税の特例
国から「導入促進基本計画」の認定を受けた自治体で事業を行う中小企業者等が、「先端設備等導入計画」の認定を受けることで固定資産税が優遇される制度のことです。
コインランドリーが属するサービス業の適用対象者は、「資本金の額または出資金の額が5,000万円以下の法人および個人」「常時使用する従業員数が100人以下の法人または個人事業主」とされています。
また制度の期限は令和5年3月31日となっています。
制度を利用できる自治体は全国で1,647あり(令和3年6月15日現在)、自治体の地方税法によって固定資産税の課税標準が3年間ゼロから1/2の割合まで減額されます。
この特例を受けるには3年~5年の計画期間で基準年度比労働生産性を年平均3%以上に向上させる計画書を申請し自治体から認定されなければなりません。
スキームが煩雑で手続きに時間を要しますが、適用できれば大きな節税効果が期待できます。
会計上の取扱い
土地や建物が評価対象となる不動産と違って、コインランドリーは設備自体が資産の評価対象となるため、一般動産として毎年減価償却されます。
有価証券や不動産などの資産を、取得価格ではなく現在価格で評価する時価評価の場合、簿価が高くなり税金の支払額も多くなってしまうことがあります。
一方、コインランドリーは開業から十数年経過すれば、簿価は確実に小さくなっています。
評価額を抑えながら利益を出し続ける資産を保有できれば、高い利益率を達することができ、売却・譲渡・相続などに向けた節税対策にも繋がります。
節税対策のメリット・デメリット

続いて、コインランドリー経営による節税対策のメリット・デメリットをご紹介します。
メリット
コインランドリーの経営によって利益を大きく上げることができなくても、節税対策としてコインランドリーを開業するメリットは大きいと考えられます。
上記でご紹介した優遇制度を利用して法人税が大きく抑えられる他、コインランドリー市場の将来性も見込まれるため、事業ポートフォリオ上のリスク分散にも寄与します。
コインランドリー経営は、開業後のオペレーションにもそれほどコストはかかりません。副業としてコインランドリー経営に投資する場合や人件費などの維持費を出す余裕がない場合でも検討する価値はありそうです。
資産自体の評価額が落ちてもコインランドリーが稼働し続け、維持費も圧縮できれば、利益を大きくすることも十分に可能です。
また、法人が持つ資産を個人に移す際の節税対策としても、現物支給にできるコインランドリー経営は退職金の受給や譲渡・相続の節税対策にも利用されることが見込まれます。
デメリット
初期費用が高くなるため、資金に余裕がないと開業は難しいでしょう。
良好な立地や地域の世帯層など経営の条件に合うようなコインランドリーをすぐに選定し開業することも至難の業です。
また、融資を受けて開業することを考えるのであれば、節税対策がメインではなく、経営によって稼ぐことに注力しなければなりません。
特に、個人事業主としてコインランドリー経営を行う場合は、収支の目処をしっかり立ててから開業に踏み切るとよいでしょう。
節税優遇制度を受けるためには、設備投資を行う前に申請書類の提出や手続きが必要になる場合もあるため、諸々の調整に手間が掛かることもデメリットとして挙げられます。
コインランドリー経営による税金対策の事例

最後に、上記でご紹介した優遇制度を用いた実際の節税効果について、簡単な事例を用いて試算した結果をご紹介します。
資本金の額又は出資金の額が3,000万円以下の中小企業が「経営強化税制」を利用して税額控除の適用を受ける場合、10%の税額控除割合が適用されます。
つまり特定経営力向上設備等の費用を1,500万円とした時は150万円分が法人税から差し引かれることになります。
ここで、所得金額を2,000万円と仮定すると、税額控除を選択した場合にはまず減価償却費(×0.077)をここから引きます(2,000万円 – 115.5万円 = 1,884.5万円)。800万円に法人税率15%、1,084.5万円に法人税率23.2%が適用されるため、支払う法人税は371万6,040円となります。
税金控除限度額は法人税額の20%となるので、上記の場合の限度額は74万3,208円となり、残りの75万6,792円は翌年に繰り越されます。対象事業年度の法人税額は、371万6,040円 – 74万3,208円 = 297万2,832円です。
代わりに即時償却を選択した場合、1,500万円が損金算入となるため、対象事業年度の所得金額は500万円となり、支払う法人税額は75万円となります。
翌年も同じ所得金額であったとすると、2年間のそれぞれの法人税額は以下の通りです。
- 税額控除:297万2,832円×2年=594万5,664円
- 即時償却:75万円+398万4,000円=473万4,000円
起業してまもない時期では即時償却の方が節税効果が高いことがわかります。
一方ですが、耐用年数の13年を迎える頃にはトータルで税額控除の方が節税効果が高いと考えられます。
キャッシュフローを予想して、対象事業年度と翌年の予想所得金額に合わせた選択をするとよいでしょう。
まとめ
いかがでしょうか。
本記事では、コインランドリー経営による税金対策について執筆しました。
節税対策を考える立場は少しずつ違うと思います。
- 他事業で安定的な収益を得ながらコインランドリーの開業・経営を行う
- 今後コインランドリー事業を軸に収益を得たい
- 法人あるいは個人で経営を行う
しかし、どのような場合でも、事業を行う上で税金対策は重要なテーマですので、計画性を持って対処する必要があります。
この記事を通じて、コインランドリー経営と税金対策の方法に対する知識を深め、皆様のより良いコインランドリー経営の一助となれましたら幸いです。