資金を守って節税対策。決算月でも慌てず損金計上の再確認を。

資金を守って節税対策。決算月でも慌てず損金計上の再確認を。

会社を経営している方にとって、利益を守ることは大事なことです。そのための方法の一つとして、納税額をどう減らすか検討されているのではないかと思います。

この記事では決算月でもできる節税方法を紹介します。

この記事でわかること

  • 計上できる損金の見直しで納税額が減る
  • 損金には現金の支払いが伴うものと伴わないものがある
  • 資金を守りつつ、節税対策をすることが大切

納税額を減らすために考えやすいこと

納税額を減らすために考えやすいこと

納税額は利益となる「益金」から「損金」を引いた「課税所得金額」をもとに決まります。納税額を減らすためには利益が減ればいいと考え、利益圧縮のために費用を計上しようとするケースが見受けられます。

しかし、費用の中から納税額を下げることができるものは損金」として認められる項目のみです。

節税のためと不要なものを購入しても計上できる損金が少なければ、節税額よりも資金減が大きくなってしまい、意味がありません。

節税ができたとしても、資金を活用することができなくなってしまっては、経営にもマイナスになってしまいます。

とくに銀行融資の際には、利益が出ているかどうかで返済能力を見られる場合があります。将来的に銀行融資を検討している場合、過度な節税対策は避けましょう。

また、損金は現金の支払いを伴うものだけではありません。資産の価値が下がってしまったとき、損金を計上して調整する場合があります。

次の項目からは、現金の支払いを伴う損金と伴わない損金の代表的な項目を紹介していきます。

現金の支払いを伴う損金

現金の支払いを伴う損金

納税額を決める「課税所得金額」を少なくするために、「損金」となる経費を増やす方法です。資金の減少が伴いますので、計画されている経費を効果的に損金計上するポイントを紹介します。

設備購入による節税

設備購入は節税対策としてイメージしやすい方法です。必要以上の資金流出を防ぎ、納税額を抑える方法の検討をしてみましょう。

設備投資の前倒し

事業年度末に予想よりも利益が出ている場合は有効な方法です。

もし次年度に設備購入の予定があるならば、購入の時期を早めてみてはいかがでしょうか。当期に購入することができれば、購入費を損金として計上できる場合があります。

現金の支払いを伴いますが、必要な設備を購入するのですから無駄になりません。

ただし、購入した設備の金額などにより、損金として計上できる金額は変わります。一つ10万円未満のものであれば全額損金に計上できますが、10万円以上になると損金に計上できる金額は出費の一部になってしまいます。

10万円以上の高価な設備を購入した場合、損金として計上できるのは当期の減価償却分のみとなります。

減価償却とは、資産が時間の経過によってその価値が減っていくという考え方です。高価な設備を長期に渡って使用するため、耐用年数に応じて配分した損金を計上していくという処理です。

具体的には1年ごとに設備代の一部を、法律に沿って算出した減価償却費として計上します。

1年未満の場合は月割りで算出することになっていますので、決算月では1年間の減価償却費の1/12となってしまいます。そのため、想定よりも節税効果が少ない可能性もあるため、注意しましょう。

例えば、期末に360万円の社用車(普通自動車)を購入したとします。

ここでは、定額法で減価償却することとします。

定額法の計算方法:取得価額×定額法償却率=減価償却費

定額法償却率:0.167

出典:国税庁HP 減価償却:No.2100 減価償却のあらまし

毎年の減価償却費は次のようになります。

償却率:0.167

360万円×0.167=601,200円

1年間で601,200円ですので、1ヵ月の減価償却費は12で割ると次の金額になります。

601,200÷12ヶ月=50,100円

現金で支払った金額は360万円ですが、損金として計上できるのは50,100円です。資金流出が大きい割に、節税効果はあまり期待できない結果となりました。

少額減価償却資産の取得価額の特例

高額な設備購入費は減価償却が基本ですが、特例もあります。一つの設備が30万円を超えないものである場合は、購入費全額を損金にできるというものです。

ただし、この特例を利用できる法人は青色申告の中小企業であることや雇用人数などの条件があります。

また事業年度における減価償却資産の取得価額が総額で300万円までであること、2022年3月31日までに取得等をしたうえで事業に使用していること、などが注意点です。

詳しい条件は国税庁HPの「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」に記載されています。

損金の計上するタイミングによる節税

翌年度に受けるサービスや支払う費用を当期の損金として計上する方法です。

ただし、損金計上のタイミング調整ですので、翌期に利益額が大きいと翌期の納税額が増える可能性もあります。

具体的には次の3項目です。

未払金

自社の依頼した仕事が事業年度末までに行われ、相手への支払いが翌年度になる場合、当該年度の未払金となります。払金は仕事を依頼した年度に損金として計上することが認められます。

ただし、依頼した仕事が当該年度内に行われたこと、依頼した仕事の支払い額が確定していることなどの条件があります。

例えば、発注した商品の料金支払いが、月末締め翌月15日払いというようなケースです。納品が決算月に行われた場合、料金の支払いは来年度になります。依頼内容は完了しており支払額も決まっていますので、損金に計上することができます。

また、自社の社員への給与についても、支払っていない給与を損金に計上できる場合があります。例えば20日締め月末払いであった場合、決算月の21日から月末までの給与は支払っていません。

しかし、21日以降も社員は仕事をしており、支払う給与も確定していますから損金に計上することができます。

短期前払費用

リース料やオフィスの賃料などのように継続的に契約するものが対象になります。長期の契約による料金の支払いは、利用する年度ごとに損金に計上することになっています。例えば、5年分まとめて支払った場合は事業年度ごとに分けて計上します。

しかし、支払った日から1年以内にその役務が提供される(終了)するものであれば支払い時に全額損金として計上できます。

そのため、決算月に1年分支払うと翌年度分の費用を当該年度内の損金として計上できるのです。

例えば、事務所の賃料の場合を考えます。

・契約期間:5年 ひと月の賃料:10万円

1.毎年年度末の3月末に(4月~翌年3月)までの賃料120万円を支払う

この場合、3月末に支払ってから1年以内に提供時期が終了するため、短期前払費用として計上できます。

2.毎年2月末に(4月~翌年3月)までの賃料120万円を支払う

この場合は、翌年2月末までに120万円分の提供時期が終了しない(翌年3月の分がまだ残っている)ため、短期前払費用として計上できません。   

ただし、事業年度によって支払う期間を変えた場合は収益の操作と考えられ、認められない可能性があります。年払いの支払額を短期前払費用で計上した場合は、毎年年払いで支払うことになります。

決算賞与を支払う

決算時期に従業員へ賞与を払い、未払金として計上する方法です。毎年支払う必要はありませんので、利益が大きい年に従業員へ還元する方法としても活用できます。

決算賞与を受け取る全従業員に知らせること、知らせた翌年度開始から1カ月以内に支払うことなどの条件があります。従業員へ支払いを知らせた月に損金として計上し、実際の支払いは翌年度に行います。

なお、賞与支払いを知らせた従業員全員に支払うことも条件になりますので、支払予定者が一人でも年度末に退職してしまうと利用できません。

また、節税方法として使われることが多いため、調査対象になりやすい項目です。

税務調査の対策もきちんとしておく必要があります。

現金の支払いを伴わない損金

現金の支払いを伴わない損金

会社が資産として計上しているものの価値が下がってしまったときや、処分したときに損金として計上する方法です。この方法では、会計上で費用計上することで損金を計上するため、資金の流出はありません。

例えば、仕入れた商品が在庫として残ってしまった、使わなくなった備品を格安で売却した、などです。

仕入れた商品が売れ残ってしまった場合、入手した価格より安く売る、廃棄するなどの対処を検討すると思います。

廃棄時に帳簿価額5,000円の資産価値がある商品を20個廃棄したとしましょう。

廃棄した資産の帳簿価額は5,000円×20個で100,000円となります。100,000円分帳簿上の資産が減りましたので、その金額を損金として計上します。この100,000円の費用は支払っていませんので、資金を流出することなく損金として計上することができるのです。

会社で購入した車や機械のように、会社で使用する設備を処分したときにも資産の価値分を損金として計上することができます。

中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)に加入

中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)に加入

中小企業倒産防止共済は、中小企業基盤整備機構が提供している中小企業を対象にした共済で、取引先の倒産などによる経営難に陥ることを防ぐための制度です。

掛金を損金計上でき、40ヵ月以上の加入で解約時に掛金の全額が払い戻されるのが特徴です。賃料などと同様、1年以内の掛金であれば年度末に年払いで損金計上することができます。

掛金の拠出で節税効果を期待しつつ、資金難のリスク回避をすることができる制度といえるでしょう。

ただし、将来解約したときには、解約返戻金は雑収入として計上することになります。長い目でみると納税の繰り延べといえます。

まとめ

会社を経営されている方にとって、納税額を抑えることは大事なことだと思います。

しかし、大きな現金の支払いを伴う節税方法では、結果的に資金を減らすことになってしまうことがあります。

会社の資金を有効活用するために、資金を守りつつ、節税する方法を考えてみてはいかがでしょうか。

黒川一美

黒川一美

大学院卒業後、セールスエンジニアとしてIT企業に勤務。出産を期に退職し、お金を稼ぐ側から家計を守る側になり、お金の知識不足を痛感。また、実父の相続の際、資産を守ることの大変さ・大切さを実感し、お金の知識を得るためFP2級を取得。
お金の知識を深め、資産を守るお手伝いが出来るFPを目指している。
執筆:FPサテライト株式会社 所属FP 黒川一美

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