設備増強、新規事業を始める前に!即時償却のモデル例と注意点を紹介

設備増強、新規事業を始める前に!即時償却のモデル例と注意点を紹介

既存事業の拡大のため、または、新規事業のために各種設備を購入した場合、通常の会計処理では取得額を設備の耐用年数の間で徐々に経費として計上していく、減価償却が行われます。

しかし、中小企業等経営強化法の対象となる中小企業や個人事業主の場合、取得額全額を初年度に一括償却する「即時償却」という制度を利用することができます。

この記事では、設備投資時に使用できる即時償却という仕組みについて、実際のモデル例や利用時の注意点も交え解説していきます。

この記事ではこんなことがわかります。

  • 即時償却のモデル例
  • 即時償却の納税までの流れ
  • 即時償却の注意点

即時償却の概要と適用対象

即時償却とは、企業が高額の設備を導入した場合に設備費を導入した年度に一括して費用として計上できる制度です。

この制度の対象となるのは、中小企業等経営強化法の対象となる中小企業や個人事業主が平成29年4月1日から令和3年3月31日までの期間に取得した、事業用の設備や建物などです。

即時償却のメリットにつきましては「即時償却のメリットにとは何か?結論:節税効果を早期に得られます 」の記事をご覧下さい。

実際の企業活動で即時償却が利用できる例

実際の企業活動で即時償却が利用できる例

では、実際の企業活動の中でどのような場合に即時償却が利用できるか、具体例を交え解説していきます。

機器の買い替え、増設

工場で使う生産機器やレストランで使う大きな冷凍庫、基幹業務で使うサーバーなどといった事業で使用する設備の、老朽化や故障による買い替えや業務拡大に伴う増設を行う場合、従来の設備より性能が向上しているなどの条件が合えば即時償却を利用することができます。

また、即時償却は「生産向上に関わる設備」という定義から、生産に関わる機器のみが対象だと思われがちですが、実は職場環境を改善する設備にも利用することができます。

たとえば、60万円の業務用エアコンを職場環境の向上のために買い替えた場合でも、即時償却を利用して購入費60万円を費用計上できます。

昨今、新型コロナウィルスの影響により多くの企業でテレワーク導入が進んでいますが、テレワークで使用する機器も令和2年4月より即時償却の対象となりました。

これにより、テレワークで使用するテレビ会議システムや勤怠管理システムなども、条件に合えば即時償却を利用することができます。

業務を支える設備の新設

即時償却は、既存の設備だけではなく新規の設備に対しても利用することができます。

たとえば、電力を大量に使う企業や、停電対策を考えている企業が、太陽光発電で自社が使用する電力を賄うことを検討した場合。

太陽光発電は初期費用が高額なため、減価償却費として長い期間費用計上することになります。電力費は抑えられても計上する費用面でのリスクが大きいと感じられるかもしれません。

ここで即時償却を利用できれば、費用として計上するのは導入した年だけで済みます。

導入年度の法人税節税と導入後の電力購入費削減により、企業の資産を守れる可能性があります。

ただし、即時償却を利用する場合は、自社での消費電力に限られますので、余力電力の販売が出来ないことに注意が必要です。

新規ビジネス参入のための設備新設

ここまでは、すでに経営されている事業を例に挙げてきましたが、即時償却は新事業を始める場合も利用することができます。

新しい事業を始める場合、事業の内容によっては莫大な初期費用がかかり、参入時期や規模などを慎重に見極める必要があります。

しかし、即時償却では設備費がすべて費用として計上できるので、初期費用に設備費の割合が多い事業、特にコインランドリー事業などでは税制メリットが大きくなります。

コインランドリーを業務として始める場合、機器類をすべて購入すると初期費用として2,000万円から3,000万円という費用が掛かることが多く、その初期費用の約70%が設備費で占められると言われています。

たとえば、2,000万円の初期費用がかかった場合、そのうちの1,400万円程度が設備費となります。その約1,400万円を即時償却として申請すれば、初年度の利益が大幅に圧縮でき、翌年以降の資金に余裕が生まれます。

コインランドリー事業以外にも収入がある場合は特に、1,400万円という費用の計上がその年の納税額に大きな影響を与えることになります。

加えて、フランチャイズ経営を選択した場合は経営のノウハウなどを事業本部が提供してくれるので、独立して開業するよりも心理的な負担が少ないのではないでしょうか。

即時償却の認可申請から納税までの流れ

即時償却の認可申請から納税までの流れ

ここからは、認可申請から納税までの具体的な流れを見てみましょう。

即時償却の認可申請は2ステップ

ステップ1:導入する設備が中小企業等経営強化法の要件に適合する証明を受ける

設備購入を行う前に企業は必ず、導入する設備が中小企業等経営強化法の要件に適合している、という証明を承認機関から受ける必要があります。

この手続きは、導入する設備が生産向上設備に適合しているか、収益力強化設備に適合しているかによって異なります。

A型:生産工場設備に適合している設備

中小企業等経営強化法では、生産工場設備に手企業している設備として「一定期間に販売されたものであること」、「旧型より生産効率が1%以上向上すること」、と定義されています。

申請者はメーカーを経由して所属する工業会などから、証明書を発行してもらいます。

B型:収益力強化設備に適合している設備

中小企業等経営強化法では、収益力強化設備に適合している設備として「設備を導入することによって、投資利益率が5%以上となるもの」と定義されており、経済産業局で認められる必要があります。

申請者はまず、設備投資計画案を公認会計士や税理士に提出し、事前確認書を作成してもらいます。その後、作成した事前確認書と投資計画書を経済産業局に提出して、確認書を発行してもらいます。

ステップ2:中小企業等経営強化法による支援対象の認定を受ける

申請者は作成した経営力向上計画を事業所轄大臣に提出し、中小企業等経営強化法による支援対象の認定を受ける必要があります。

なお、経営力向上計画を作成するには経営革新等支援等支援機関に認定された公的機関や税理士・認定会計士・弁護士などからサポートを受けることが出来ます。

各地域の支援機関は、中小企業庁のホームページに掲載されています。

納税申告

納税申告時に前述の認可申請で発行された認定書等の写しを添付し、事前に作成した計画書等に沿って行った設備投資に対して即時償却を利用します。

なお、経営力向上計画の認定や、設備が小企業等経営強化法の要件に適合している証明書の発行には時間がかかります。

申請後、機器導入を年度末までに行わなければいけませんので、即時償却の利用を検討している場合には早めに申請を行うことが重要です。

即時償却を利用するときの注意点

即時償却を利用する場合、以下の点に留意する必要があります。

  • 設備を購入する前に申請が必要
  • 承認機関への申請と設備の導入を同年度に行う必要がある

これらを満たしていない場合は、高額な設備投入を行っても即時償却が利用できず、通常の減価償却での処理となります。

即時償却が利用できなかったとなると、即時償却を利用することで得られたメリットを享受することができず、以降の事業計画にも影響を与える可能性があるため、注意が必要です。

まとめ

即時償却を利用して設備投資を行うことで、初年度の利益を圧縮することができ余剰資金を確保することができます。

即時償却を利用するには、売上の予想や申請書の提出時期などを検討し、計画的に設備投資を行う必要がありますが、大きな利益を得られる年度に制度活用ができれば、資産を有効活用することが可能になります。

何かと費用が掛かる設備投資にかかる資金を短期間で回収することができれば、より効果的に追加利益を生むことが可能になるのではないでしょうか。

黒川一美

黒川一美

大学院卒業後、セールスエンジニアとしてIT企業に勤務。出産を期に退職し、お金を稼ぐ側から家計を守る側になり、お金の知識不足を痛感。また、実父の相続の際、資産を守ることの大変さ・大切さを実感し、お金の知識を得るためFP2級を取得。
お金の知識を深め、資産を守るお手伝いが出来るFPを目指している。
執筆:FPサテライト株式会社 所属FP 黒川一美

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