税理士を選ぶ際に注目すべきポイントは?

中小企業庁の「2020年版 小規模企業白書」によると、小規模事業者において日常的な経営に関する相談相手で最も割合が多かったのは「税理士・公認会計士」です。

(出典)「2020年版 小規模企業白書」(中小企業庁)

 第3部/第2章/第4節 日常の相談相手の活用

このデータから、中小企業にとって税理士は頼れる相談相手であることが伺えます。では、税理士を選ぶ時にはどのような点に注目すればよいのでしょうか?

この記事では税理士を探す際に検討するべき以下の点がわかります。

  • 税理士の基本情報
  • どんな税理士がよいか
  • 自分が注意するべきポイント

税理士の基本情報

税理士の基本情報

税理士の業務範囲

税理士の業務は、税理士法第二条で以下のように規定されています。

  1. 税務代理=税金の申請等を行う
  2. 税務書類の作成=税務署に提出する書類を作成する
  3. 税務相談=税務に関する相談に対して回答する

この3つは「独占業務」と呼ばれ、税理士法第五十二条で税理士以外の者がこれらの業務を行ってはならないと制限しています。

加えて税理士の業務は上記の3つだけではなく、節税のアドバイス、決算対策、資金調のサポートなど多岐に渡っています。

税理士事務所の数は意外と多い

少し古いデータですが、2016年の税理士事務所の事業所数は全国で28,404件です。

参考までに同時期のコンビニエンスストアの店舗数が49,463件なので、その約6割に相当する税理士事務所があるという計算になります。

(出典):「平成28年経済センサス‐活動調査」産業(細分類)別民営事業所数及び従業者数―全国,都道府県(総務省統計局)

税理士の数は想像よりも多いのではないでしょうか。これだけ多くの中から自分に合った税理士を選ぶには、どのような点に注意したらよいのでしょう?

必ずココは確認したいポイント2つ

必ずココは確認したいポイント2つ

「事業主と税理士・公認会計士のコミュニケーション実態調査」として行われたアンケートによると、事業主が税理士・公認会計士の方とのやりとりで不満や不快に思った理由が挙げられています。

税理士・公認会計士の方とのやりとりで不快に思った理由

  1. コミュニケーション=25.5%
  2. サービス=25.1%
  3. 価格=24.2%
  4. スキル=22.2%
  5. その他=3.3%

(参考)「2017年会計事務所白書【事業主編】」(株式会社ミロク情報サービス

「その他」以外の4つの項目はほぼ横並びですが、コミュニケーションとサービスに対する不満が合わせて約半数です。これは税理士というよりは、人と人との相性や感性が合うかどうかが大きいと思われます。

まずはこの2つに重点を置いて検討してみたいと思います。

良い関係が築けるか

税理士は業務においてパートナーとなる位置付けであり、報酬を支払って税務処理をサポートしてもらうという関係になります。

顧客の話に耳を傾けようとしなかったり、横柄な態度で接してくるのであれば、大きなマイナスポイントになりますよね。

一方で、税理士は国家資格者なので非常に厳しい職業倫理を求められます。

そのため、顧客の知識不足からグレーゾーンに抵触するような言動や行動を示した場合に、毅然とした態度で進言することもありえます。

そういった場合に「威圧的」「上から目線」と感じるかもしれませんが、むしろ頼りになる税理士として評価すべきかもしれません。

身だしなみや言葉遣い、応対の誠実さ、レスポンスの速さなどから「ビジネスパートナーとして信頼できるか」をまずはチェックしましょう。

税務調査で味方になってくれるか

誤解してほしくないのですが、税理士が「味方」といっても、国税庁や税務署が「敵」というわけではありません。「顧客の立場に寄り添ってくれるか」という観点で考えてみてください。

国税庁が2019年11月に発表した「平成30事務年度 法人税等の調査事績の概要」によると、税務署における取組は「申告内容に誤りがあると想定される納税者に対して自発的な見直しを要請している」とされています。

(参考)納税者の税務コンプライアンス維持・向上に向けた取組~簡易な接触~(国税庁)

つまり、書類への記入ミスや計算ミスがあると、自発的な修正を促すために税務調査の対象になる可能性があるということです。

しかし、正しい申告でも売上や経費に大きな変化があった場合は、同様に税務調査の対象になることが考えられます。

そういった時に税務署からの質問や指摘事項に対して、税理士が根拠を示して適正な税務処理を行なっていると主張してくれると安心ですよね。

また「書面添付制度」を利用して、税務申告書等に内容を説明した文書を添付することで、事前に対策を講じてくれると信頼感が増すでしょう。

逆に終始一貫して税務署サイドの意見に同調するようでは、不信感が生じてしまうのではないでしょうか。

税務調査に対する経験をヒアリングするなどして、経営者側に寄り添ってくれる税理士かどうかを確認しましょう。

こういう税理士を選びたいポイント2つ

こういう税理士を選びたいポイント2つ

先ほど参考に挙げた「会計事務所白書」では、「価格」と「スキル」に対する不満がそれぞれ約4分の1ずつという調査結果でした。

また、同アンケートで「税理士・公認会計士の方を選ぶ際、決め手になった理由」として、「基本業務(節税支援・決算対策など)の丁寧さ」が42.2%とトップに挙げられています。

なぜ「価格」と「スキル」に対する不満が生じるのでしょうか?そのような不満を生じないためにも、この2つに関連するポイントをチェックしてみましょう。

報酬が明瞭である

税理士の業務は多岐に渡るため、一から十まで依頼すると報酬が高額になってしまいます。決算申告のみを行うのか、銀行融資の相談に乗ってくれるのか、記帳代行から全てお任せするのか、様々なケースが考えられます。

その際に依頼する範囲と報酬の対応が明瞭でなければ、何をどこまで依頼するのか判断が難しくなるでしょう。

そこで「このくらいの予算で検討している」と相談した時に「ではこの範囲までの業務は可能ですよ」といった回答があれば検討材料になります。

適正な見積りをきちんと提示してくれるか、値段相応のサービスを提案してくれるか、などを明確に回答できるかチェックしてみましょう。

最新の税務情報をキャッチしている

社会情勢や経済環境が常に変化し続けるのに伴い、「税制改正」という税制の見直しが毎年行われます。毎年12月頃にまとめられる「税制改正大綱」では翌年度以降の方針が示され、財務省のホームページで公開される分量は100ページを超える膨大なものです。

税理士はこのような税制改正に対応していく必要があります。最新の情報を知らなければ顧客に適切な提案もできないでしょう。

会計ビッグバンが起きる2000年以前は、日本独自の会計基準だったため、会計処理も今ほど複雑ではありませんでした。またM&Aや社会責任の追及も今より激しくなく、経営や節税に関するアドバイスなどは需要がなかったかもしれません。

しかし「税理士の業務範囲」で述べたように、現在は相談業務も含め税理士に求められるニーズが広範囲に渡っています。記帳代行業務や決算・申告書作成業務以外の業務に対応するためには、最新の税務情報をキャッチしていくスキルが必要と思われます。

税理士が時代遅れの知識やスキルに留まっていないか、最新の税務情報について質問してみましょう。

依頼する側として注意したいポイント4つ

依頼する側として注意したいポイント4つ

ここまで選ぶ側としてどこに着目すればよいのか、という視点でポイントを説明してきました。

しかし、税理士の側からすると頻繁に過度な要求をしてきたり、締切にルーズな顧客は望ましくないでしょう。

ここからは依頼する側に求められるポイントとして、どこに着目すべきかを解説していきます。

直接会って面談を行う

先ほど参考に挙げた「会計事務所白書」では税理士・公認会計士の方のうち、「紹介」というケースが全体の80%以上で1位になっています。

ただし、知人や同業者からの紹介だからといっても、即契約に進むのではなく直接面談して、今まで挙げたポイントをチェックする方が望ましいでしょう。

ビジネスマナーとしても、依頼するならば一度は直接挨拶することに間違いはありません。

今はインターネットで自動車や賃貸物件を探すことができます。しかし購入や契約の最終判断は、実際に試乗したり現地の下見を行うのが一般的と思われます。

税理士側も直接会って対面で話をする方が、お互いの雰囲気や相性も含めて明確に判断できるでしょう。

先に述べた「威圧的」「上から目線」と感じることも、直接顔を合わせてみれば、顧客と業務に真剣に向き合っているから厳しい言動なのか、感情的に熱くなっているのか判断できるかもしれないですね。

相性を具体的に検討する

税理士を選ぶポイントとして「報酬が明瞭である」という点を先に挙げました。しかし決算処理だけを依頼したいのに、検討中の税理士が決算処理だけの契約を受け付けていなければミスマッチといえます。

「人間関係は相性が重要」とはよく耳にする意見です。その相性の良し悪しは何が原因か明確にすると、人間関係を円滑に形成する鍵になるでしょう。

たとえば、打ち合わせの手段は対面が当然と考える方もいるかもしれません。しかし今の時世、基本的には毎月の収支資料は電話やメールでのやりとりで済ませ、四半期ごとや決算前のみ訪問という形態の税理士も多くいると思われます。

コミュニケーションツールの手段や頻度を事前にすり合わせておくと、「顧問の税理士がオフィスを訪問してくれない」というミスマッチを回避できるでしょう。

自社の業種・業界の知識があるか

税理士によって取扱業務だけではなく、飲食業・金融業・建設業など取扱業種にある程度の偏りが出る場合があります。

「いざ依頼しようと思ったら自社の業種に疎い税理士だった」など残念なことが起きる前に、顧問契約を検討している税理士の得意な業種を調べておくと良いでしょう。

日本税理士連合会の「税理士情報検索」サイトでは、主要取扱業種や主要取扱業務で抽出して検索することができます。

また、口コミやWebサイトなどから、同業他社のクライアントを担当した実績があれば安心ですよね。

業界によっては決済手段として現金しか通用しない場合もあれば、手形払いが主流の業界もあります。そういった業界特有のルールや習慣を熟知した税理士であれば、税務に関して有利になるでしょう。

ビジネスルールを守る

「お客様」だからといって無理難題を押し付けるのは、良好な関係を築く上で好ましくない態度と言えます。

忙しくて帳簿に手が回らなかったからという理由で、契約外の記帳代行を急に依頼するなど、契約時に定めた業務以上のサービスを求めるのは控えるべきでしょう。

また、決算時の必要書類の提出日を過ぎてしまうなど、信頼を失うようなことは避けましょう。

まとめ

経営に税務の知識は必須のものですが、全てを自力で行おうとすると非常に大きな労力を要します。そのため、企業では税務に関する業務を税理士に依頼しているのです。

税理士は税務のプロであることはもちろん、相談相手としても心強いビジネスパートナーになってくれるでしょう。

一方で依頼する側としても準備できるところはベストを尽くし、ミスマッチによってお互いの不利益が生じないように努めたいものですね。

阿部倉弘子

阿部倉弘子

大学卒業後、フリーター、OAインストラクターを経てIT企業へ就職。
IT企業就職と同時に始めた一人暮らしで家計管理の難しさを知り、お金について興味を持つ。
保険相談を通じてファイナンシャルプランナーという職業の奥深さを知り、FP2級を取得。
IT企業勤務の傍ら、どんな状況でもお金の不安を感じない人生設計をするガイド役FPとして活動している。

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