いつが最適?法人設立のタイミング【個人・法人の違いも解説】

いつが最適?法人設立のタイミング【個人・法人の違いも解説】

資産運用や副業をされている会社員の方や個人事業主の方で、一定金額以上の売上や所得が発生している場合、このまま個人として事業を継続すべきか、あるいは会社を設立した方が良いのか、迷われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

最初から会社設立を目指していたのではなく、思わぬきっかけから事業を始め、気が付けば規模が大きくなっていたという場合には、なかなか法人設立のタイミングがつかめないかもしれません。

しかし、事業の売上や所得の規模によっては、法人を設立した方が節税になるケースもあります。

一方、副業または個人事業主として事業を継続した方が良いケースもあり、法人設立のタイミングも含め、慎重に吟味していく必要があります。

本記事では、個人事業主と法人の違いや法人設立のメリット・デメリットなどについて触れながら、どのようなタイミングで法人設立を行えばよいのかについて説明します。

この記事ではこんなことが分かります。

  • 個人事業主と法人の違い
  • 法人設立の判断ポイント
  • 法人設立の注意ポイント

個人事業主とは?法人とは?

個人事業主とは?法人とは?

そもそも個人事業主と法人との違いは何なのでしょうか。

個人事業主とは、その名の通り、開業届を税務署に提出して個人で事業を行っている方のことを指します。税法上の所得区分は「個人」となるため、事業で得た所得は事業主の「個人所得」として申告をします。

煩雑な手続き無しに開業や会計処理が行えるため、小規模事業を始める個人が最初に利用することが多い形態になります。

一方、法人とは法的に法人格が与えられた主体のことを指し、個人とは全く別の事業体となります。

個人事業主の場合は、プライベートな部分と事業との部分の境界線が曖昧になることもありますが、法人を設立した場合には個人と法人との間に明瞭な境界線が引かれることになり、個人と法人が別々の勘定を持つことになります。

独立して事業を始める段階で法人を設立するのか、個人事業主から始め時期を見て法人を設立するのか、法人設立のタイミングはさまざまですが、法人格を取得して事業を行う時は、社会的信用度・責任、手続きの煩雑さ、行動の範囲が総じて上昇します。

法人設立を考える3つのポイント

法人設立を考える3つのポイント

1. 節税の面から考える

個人事業主と法人の大きな違いは税金の計算方法にあります。

税率の違い

課税内容について、個人事業主であれば所得税、住民税、個人事業税(除外事業あり)などが課税され、法人であれば法人税等(法人税、法人事業税、法人住民税、地方法人特別税)などが課税されます。

個人と法人とでは、税金支払額の計算方法が異なりますが、法人設立を考える際は個人事業主として払う税金の額と、法人設立後に会社および事業主個人で払う税金の額を比較する必要があります。

所得税と法人税で比較した場合、所得(売上)金額が多くなるほど、個人で支払う税金の額が個人+法人(会社)で支払う税金額を上回ります。

これは、個人の所得税率が所得に応じた累進課税方式(5%~45%)であるのに対し、法人税率が資本金の額に応じて固定(15.00%~23.20%)されているためです。

事業が大きくない初期の段階でも、法人を設立した方が税制上有利になり税金が抑えられる場合もあるので、一度ご自身の事業に照らし合わせてシミュレーションを行ってみると良いでしょう。

消費税の免税

買い手から預かった消費税を、売り手は国に納税する義務があります。

個人事業主や法人の区別なく、すべての事業者は1年間の売上が1,000万円を超えたら、その2年後に課税事業者となり納税の義務が発生します。

しかし、個人事業主として年間の売上が1,000万円を超えた場合でも、以下の条件を満たす形で法人を設立をすることで、この消費税の納税が最大4年間免税されます。

  • 資本金額1,000万円未満での法人設立
  • 売上金額が1,000万円を超えた2年後までに法人を設立
  • 半年間で1,000万円以上の売上が発生していない

これは、消費税は売上が1,000万円を超えると課税対象となること、消費税額は2年前の売上を元に計算されること、資本金1,000万円以下での法人設立時に第1期、第2期の消費税免税が適用されること、法人設立の際に設立前の個人事業主での実績がリセットされること、などが背景にあります。

控除の適用

法人設立によって、個人事業主は適用対象でない以下のような税金控除を適用できるようになります。

  • 給与所得控除(年収400万円以上で税金上のメリットあり)
  • 配偶者控除または配偶者特別控除
  • 扶養控除

法人設立によって、会社から役員報酬という形で給与を受け取るようになるので、一般の会社員と同様にこれらの税金控除が受けられるようになるのです。

法人税には影響はありませんが、事業主個人の課税所得が減少するので、結果として節税に繋がります。

2. 信用面から考える

社会的に見て、個人事業主と法人には信用度の違いがあります。

社会的信用

事業を行っていく上で欠かせないのが、資金調達です。

資金調達を行う際の信用度にも、個人事業主と法人とでは違いがあります。

金融機関から借入を行う場合、法人であれば公開されている貸借対照表及び損益計算書に加え、複数年度にまたがる事業計画書などを提出します。

個人の場合も、税務署に提出済みの確定申告書と事業計画書を金融機関に提出しますが、法人よりも事業規模が小さくなるため、借入後の返済リスクは法人より高いとみなされることが多く、金融機関からお金を借りにくいということもあります。

また、助成金・補助金の面でも法人の方が有利な点があります。

創業時に受けることができる「創業補助金」と「小規模事業者持続化補助金」は、返済不要な助成金制度です。

その他にも、法人であれば受けられる助成金制度があります。各制度の使用用途、給付条件なども考慮して上手く活用できれば、個人事業主である時よりも多くの助成金や補助金を受けられることもあります。

取引上の制約

企業の中には、法人格を持つ会社としか取引をしないと決めているところもあります。

このような方針を持つ企業との取引が必要になってきた場合も、法人設立の一つのタイミングと考えられます。

3. 事業計画の面から考える

先行きの怪しい事業を法人化しても、設立と清算のコストが発生するだけなので、法人設立を行う前に事業の見通しをしっかり立てる必要があります。

社内規定による経費の決定

個人事業主と比べて、法人は経費として扱える項目が格段に増えます。

法人の経費は事業活動を営む上で必要な費用や損失として計上されるので、事業活動での使用用途を考え、定義し、社内規定に記しておくことで、資金がどのように使用されたかについて対外的にも説明責任を果たすことができます。

個人事業主の場合には口座から簡単に資金を引き出せていたものが、法人化によってできなくなりますが、経費として計上できる項目が増えることで損金算入できる金額も増えるため、事業資金の活用としては有利なポイントになります。

以下は、法人となることで経費計上できるようになる、代表的な項目です。

  • 家賃
  • 出張手当、慶弔費
  • 車両
  • 生命保険
  • 退職金
  • 接待交際費
  • 役員への報酬

これらの経費をうまく活用して事業活動を行うことで、活動の幅もより広がるでしょう。

赤字の繰越控除、欠損金の繰戻還付制度

法人設立を行うメリットとして、赤字の繰越控除期間が伸びること、また欠損金の繰戻還付制度が利用できることがあります。

赤字の繰越控除とは、該当の事業年度に発生した赤字を次年度以降に繰り越し、黒字になった年にその黒字と赤字を相殺できる制度のことです。

黒字の年でも赤字の分が引かれることで、税金の計算上、多額の利益を計上せずに済むことになります。

この繰越期間が個人事業主が3年間であるのに対し、法人の場合は9年間(平成29年度以降に生じた損金は10年間)に伸ばされます。つまり、法人の方がより長期的な事業運営が想定されていることがわかります。

もう一つの欠損金の繰戻還付制度とは、欠損金を該当事業年度以前に繰り戻して、その欠損金分に対応する支払済みの法人税の還付を受けることができる制度です。

現在は新型コロナの影響で条件が緩和され、資本金10億円以下の法人も利用できるようになっています。

後継者の有無

事業の今後を考える上で、最終的に事業をどうしたいのかを考える必要があります。

法人設立を行う個人が、その法人から身を引く時に考えられるパターンは以下の3つです。

  • 事業を家族に引き継いでもらう
  • 事業を売却する
  • 会社を清算する

家族に引き継いでもらう際にも、事業を売却する際にも法人である方が有利です。

個人事業主の場合は事業を譲渡する際に、その適性価格を判断することが少し難しくなりますが、法人の場合は法人と個人の勘定が別にされているので貸借対照表・損益計算書を元に適正な株価を決定することができます(株式会社の場合)。

なお、家族への譲渡の場合は別に譲渡税が発生するので、対策を立てる必要があります。

残り2つのパターンは、廃業してしまうことです。

会社を清算するタイミングは、後継者がいないなどで事業を売却、精算する以外にも、事業が成り立たず、事業の活動資金が底をついてしまった時にも起こり得ることです。

しかし、事業を行っていく上で絶対に成功するという保証はないので、廃業する際の清算方法(手続きや発生するコスト)についても、あらかじめ考慮しておく必要はあります。

法人設立に際して心に留めておくべき3つのこと

法人設立に際して心に留めておくべき3つのこと

これまでご紹介した3つのポイントは、法人設立のタイミングを判断するためのポイントでした。

これからは、法人設立の際に心に留めておくべき点について説明します。

1. 事務手続きの増大

事業を法人化することに伴い、法務局への登記、財務書類や定款(社印)の準備、資本金の支払いなど、個人事業主の時と比べて、法人設立、維持のための事務作業とコストは圧倒的に増えます。

法人設立や会社のバックオフィスでの経験がある方にとってはそれほど重荷ではないかもしれませんが、一連の作業を初めて行う場合、一人ですべてを行うのは厳しいと思われます。

多くの場合は外部に専任の税理士や会計士を雇って、作業を請負ってもらうことが一般的です。

法人を設立する際には、このような外部リソースの利用も念頭におく必要があります。

2. 社会保険加入の義務

個人事業主の場合は原則任意加入となっていた社会保険も、法人の場合は従業員が5人以下である時を除いて、加入義務が生じます。

法人が加入する社会保険には健康保険、厚生年金、労働保険には労災保険、雇用保険があります。

保険料は従業員と法人が折半して負担することになりますが、従業員が増えるほどその保険料負担額は自ずと増加します。法人が負担する社会保険料は損金算入となりますが、法人として小さいとは言えない負担です。

また、個人事業主から法人を設立する場合には、個人的に加入する社会保険も変更する必要が出てきます。

従業員を有する法人を設立する際は、法人が加入しなければならない社会保険の種類と負担する額、個人として加入する社会保険の変更について把握しておきましょう。

3. 法人住民税の均等割

法人が納めるべき税金の中に、法人住民税があります。

法人税、法人事業税は課税所得に応じて税率を乗じて算出されます。しかし、法人住民税は利益とは無関係に発生する地方税となっているため、法人が黒字であっても赤字であっても一定額の税金を自治体に納める必要があるのです。

例えば、東京都23区内で操業している場合は、事業が赤字であっても7万円を負担する必要があります。

まとめ

法人設立のタイミングを見極める3つのポイントと、3つの留意事項についてご紹介しました。

いずれも、法人を設立するか否かの判断材料の一つにしかなりません。法人を設立すべきかどうかについては、様々な観点から多面的に検討することをお薦めいたします。

法人設立のタイミングは、最終的には事業主個人の判断となりますが、慎重に吟味された上で、各個人のライフスタイルや価値観に合った、最も利益をもたらす決断が下されることを心より願っております。

三上諒子

三上諒子

大阪市立大学商学部学士課程修了。学生時代にESG投資の有効性に関する研究を行い、学内の最優秀論文賞受賞。
現在はESG投資における情報開示の重要性に着目し、キャスレーコンサルティング株式会社で企業の社会的インパクト評価のフレームワーク開発に取り組む。
地球のサステナビリティには最終的に消費者の力が必要と考え、消費者行動に影響を与えるファイナンシャルプランナーを目指す。

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