中小企業経営強化税制という制度をご存知でしょうか。
中小企業経営強化税制とは、中小事業者が設備投資を行うことによる、生産力の向上や企業力の強化を手助けする制度です。
具体的には、青色申告書を提出する中小企業者等が指定期間内に経営力向上計画にもとづいて一定の設備を新規取得。その後、指定された事業でその設備を利用すると即時償却、もしくは取得原価の10%の税額控除を受けることができるという制度です。
- 中小企業経営強化税制とは
- 即時償却と税額控除のメリット・デメリット
- 即時償却の対象設備について
目次
中小企業経営強化税制とは?

税制措置の内容
導入文にて述べましたが中小企業経営強化税制とは、中小企業の設備投資による企業力の強化や生産性向上を後押しする制度です。
中小企業者が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づいて新たな設備を取得し、指定された事業にそれを利用すると、即時償却、または取得価格の最大10%の税額控除という優遇が受けられる税制です。
ここでの即時償却とは購入額の100%を経費計上できる旨を指します。
即時償却は、数年にわたっておこなう減価償却を購入初年度に一括で費用として計上できる制度です。
通常、新たに設備を購入すると設備の耐用年数に応じて、数年にわたって減価償却をおこない、すこしずつ経費に計上していきます。
たとえば、耐用年数10年、1,000万円の機械装置を購入した場合は、10年間にわたって100万円を減価償却費として費用計上していきます。
一方、即時償却は購入初年度に一括で費用計上できるため、設備を購入した年に購入価格1,000万円を減価償却費として費用計上できます。
そうすることで、経費を前出しで計上でき、早い段階で節税効果を受けることができます。
対象設備
対象設備は4種類に分けられます。
以下4点、種類のみ網羅しております。詳細は3章にて解説しております。
1.A類型:生産性向上設備
2.B類型:収益力強化設備
3.類型:デジタル化設備
4.類型:経営資源集約化設備
対象期間と申請期限
中小企業経営強化税制には、指定期間があります。
2021年4月26日に更新された「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」によると、2017年4月1日から2023年3月31日までの期間に取得して使用された設備が対象です。
手引の内容は更新される可能性がありますので(現在がすでにコロナ禍を鑑みて2年延長されている状態です)、中小企業庁のホームページ掲載の最新情報も併せてご確認ください。
参考サイト:中小企業庁
対象となる中小企業
対象となる企業は、
- 青色申告書を提出する中小企業者等
- 資本金もしくは出資金が1億円以下の法人
- 資本金もしくは出資金を有しない法人のうち常時使用者数が1000人以下の法人
- 常時使用する従業員数が1000人以下の個人、もしくは協同組合等
申請には中小企業等経営強化法の認定を受けた経営向上計画が必要です。
【即時償却or税額控除】どちらの優遇を受ければよいか

中小企業経営強化税制は「即時償却」または「税額控除」という2種類の優遇を受けられます。どちらの優遇を受ければいいか悩む人もいるのではないでしょうか。
ここでは即時償却と税額控除のメリット・デメリットを紹介します。
即時償却のメリット・デメリット
即時償却のメリット
一番のメリットは適用年度の節税効果が非常に大きいという点です。
通常、購入した設備は減価償却の考え方で課税されます。つまり高額な償却資産に対し、使用年数に応じ費用計上し課税します。
即時償却では購入金額の100%を適用年度に費用計上するため適用年度のみで見れば大きな節税効果を得ることができます。
これに随伴し手元にキャッシュが残ることもメリットと言えるでしょう。即時償却で大きなメリットを得るためには売り上げの多い年度に適用することも重要と言えます。
即時償却のデメリット
節税効果を得られるのは適用年度のみという点です。結論、2年目以降は経費計上できない為、設備に対して支払うトータルの税額は変わりません。
また、適用年度に残したキャッシュが大きい場合、法人税をより多く支払わなければならない可能性もあり、結果として支払うトータルの税額が大きくなる可能性もあります。
税額控除のメリット・デメリット
税額控除のメリット
設備購入額の10%ないし7%の控除を受けられる点です。
つまり購入した設備に対した処理ではない為(ここでは減価償却、即時償却のことをいいます)、購入金額に応じ支払う総税額を減らせるという点です。
適用年度に即時償却程の節税効果を得ることはできませんが長い目で見た際に支払う総税額が減ると思ってください。
税額控除のデメリット
即時償却程劇的な節税効果を得られない点です。即時償却では購入した金額の100%を費用計上できる為、適用年度の節税効果は非常に大きいと説明しました。
税額控除の場合、10%ないし7%の税控除になる為、適用年度に劇的な節税効果の実感は難しいでしょう。適用年度にまとまったキャッシュが必要な場合は即時償却を選択する方が得られる効果は高いと言えます。
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全4種類!対象設備について

基本的には製造や販売に関係している設備であれば対象となります。建物付属設備には、電気や冷暖房設備等が該当し、ソフトウェアにはテレビ会議や勤怠システムなどが含まれます。
では、対象となる設備の具体的な条件を見ていきましょう。
生産性向上設備(A類型)
A類型の対象設備は、
- 機械装置(取得価格160万円以上/10年以内)
- 測定工具および検査工具(30万円以上/5年以内)
- 器具・備品(30万円以上/6年以内)
- 建物付属設備(60万円以上/14年以内)
- ソフトウェア(70万円以上/5年以内)
さらに、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 一定期間内に販売されたモデル(最新モデルである必要はない)
- 経営力の向上に資するものの指標(生産効率、エネルギー効率、精度など)が、旧モデルと比較して年平均1%以上向上している設備。
この2つとともにクリアした設備が対象です。この条件を満たしていることを、工業会などから取得する証明書で示す必要があります。
収益力強化設備(B類型)
B類型の対象設備は、
- 機械装置(160万円以上)
- 工具(30万円以上)
- 器具製品(30万円以上)
- 建物付属設備(60万円以上)
- ソフトウェア(70万円以上)
そして、「年平均の投資利益率が5%以上となることが見込まれることにつき、経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた投資計画に記載された投資の目的を達成するために必要不可欠な設備」であることを、経済産業省から確認書を取得して証明する必要があります。
デジタル化設備(C類型)
C類型の対象設備は、
- 機械装置(取得価格160万円以上)
- 工具(30万円以上)
- 器具設備(30万円以上)
- 建物付属設備(60万円以上)
- ソフトウェア(70万円以上)
そして対象が事業プロセスの
- 遠隔操作
- 可視化
- 自動制御化
のいずれかを可能にする設備であることを経済産業省から確認書を取得する必要があります。
経営資源集約化設備(D類型)
D類型の対象設備は、M&Aにより他の法人の株式等と共に、同時に取得した修正ROA又は有形固定資産回転率が一定以上上昇する設備です。
具体例として「自社と取得した技術を組み合わせた新製品を製造する設備投資」や「原材料の仕入れ・製品販売に係る共通システムの導入」などが想定されています。
【注意!】経営力向上計画の提出が必要
本記事にて説明した優遇措置を享受する為には中小企業経営強化税制の条件に該当する必要があります。
その条件の一つが「経営力向上計画」を作成し、生産性向上または収益力強化・デジタル化設備として事業所管大臣に申請し、認定を受けるというものです。
つまり、経営力向上計画の認定を受けてから設備を取得するという流れが原則です。例外として、設備取得後に経営力向上計画を申請する場合は設備取得から60日以内に経営力向上計画が受理される必要があります。
必要な書類の準備や申請の進め方について不安がある場合は、商工会議所や地域金融機関へサポートを依頼するのも1つの方法です。企業としての体制強化を実現する設備投資を積極的に進めるためにも、制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
即時償却については中小企業経営強化税制を利用することで適用可能な税制度になります。
メリット・デメリットでも説明した通り、適用年度の節税効果は非常に大きいですが諸刃の剣になる可能性があることも念頭に置いて利用検討する必要があります。
それぞれのメリット・デメリットを踏まえた上で会社の状況を勘案し最大限の効果を期待できる時に利用しましょう。
本記事がその一助になれば幸いです。