即時償却・特別償却・税額控除、3つの税制優遇の違いについてわかりやすく解説!

即時償却・特別償却・税額控除、3つの税制優遇の違いについてわかりやすく解説!

中小企業・個人事業主にとって、既存事業の拡大や新規事業への参入を考えるときに大切なのが、実行する時期と、かかった設備投資費用の早期回収です。

どんな税制優遇があり、どれが自社に向いた制度か知ることで、早期回収も行いやすくなります。その後の事業展開の計画も、スムーズに進めることができるでしょう。

今回は、3つの税制優遇、「即時償却」「特別償却」「税額控除」の仕組みや違いについて、わかりやすく解説します。

この記事ではこんなことがわかります。

  • 即時償却、特別償却、税額控除、それぞれの特徴と違い
  • 3つの税制優遇の節税モデル例、最も節税効果が高いのは?
  • 利用の流れと注意点

即時償却・特別償却・税額控除、それぞれの特徴

即時償却・特別償却・税額控除、それぞれの特徴

3つの税制優遇である「即時償却」「特別償却」、そして「税額控除」。それぞれ、どのような特徴と違いがあるのか詳しくみていきましょう。

即時償却とは?

「即時償却」とは、事業に使用する設備などの取得にかかった価格の全額を、購入した年度に一括償却できる制度です。「中小企業経営強化税制」を適用することで、利用できます。

中小企業経営強化税制とは?
中小企業の設備投資に対して、【即時償却】または、【税額控除(10%)】のいずれかの税制優遇が受けられる制度。経営強化や生産性向上を後押しする制度です。

2年目以降は、その設備に対する減価償却を費用として計上できないため、最終的に支払う法人税額の総額は、通常の処理と変わりません。

初年度の法人税額を大幅に低く抑えることで手元に資金が残り、次の事業や設備に資金を回すことができるため、事業の拡大が可能となります。

特別償却とは?

「特別償却」とは、中古やリース品を除く事業用設備で一定額以上のものを購入した場合、通常の減価償却に加えて、取得にかかった価格の30%相当額を費用計上できる制度です。「中小企業投資促進税制」を適用することで、利用できます。

中小企業投資促進税制とは?
一定の設備投資を行った中小企業に対して、【特別償却(30%)】または、【税額控除(7%)】のいずれかが受けられる制度。こちらも中小企業の生産性向上等を目的とした制度です。

他の税制優遇にない特徴が、適用する年度を1年後ろ倒しにできることです。1年繰り越しを行う場合は、会計処理がやや複雑なため、税理士への依頼費用が追加で発生する可能性もあるでしょう。

初年度の利益が少ない場合には、翌年度へ繰り越すことで節税効果が高められる、というメリットがあります。

税額控除とは?

「税額控除」は、設備を取得するのにかかった価格の一定割合相当額を、法人税額より控除できる制度です。

資本金が3,000万円以下の企業は、「中小企業経営強化税制」「中小企業投資促進税制」の、どちらを適用しても利用できます。

資本金が3,000万円超1億円以下の企業では、「中小企業経営強化税制」を適用した場合のみ利用可能です。

税額控除の金額は、法人税額の20%相当額を上限に、その年の法人税額より控除されます。20%相当額を超えて控除できなかった部分は、1年間繰り越して控除することが可能です。

即時償却・特別償却・税額控除、どれを選ぶべき?何を重視するかで選ぼう

即時償却・特別償却・税額控除、どれを選ぶべき?何を重視するかで選ぼう

「即時償却」「特別償却」「税額控除」には、それぞれのメリット・デメリットがあります。どの制度を利用すれば、良いのでしょうか。

結論から申し上げると、総支払額・1年目の支払額・利益と償却額、何を重視するかで制度を選ぶのがベストです。

具体的に考えてみましょう。

企業条件
  • 資本金3,000万円
  • 取得費用1,000万円
  • 法定耐久年数10年

設備取得1年目の法人税額、および最終的に支払う法人税総額の試算は、以下の結果となりました。

(単位:万円)

償却方法/税額控除 1年目 総支払法人税額
通常の減価償却を行った場合 375 3,750
即時償却を行った場合 168 3,750
特別償却を行った場合 306 3,681
中小企業経営強化税制を適用し税額控除を行った場合
(取得費用の10%相当額を控除)
275 3,650
中小企業投資促進税制を適用し税額控除を行った場合
(取得費用の7%相当額を控除)
305 3,680

※償却処理前の課税所得は2,000万円で、10年間変わらないものとします。
※法人税額の税率は、中小法人の実効税率を適用しました。

最終的な節税効果を高くしたい場合

試算の結果から、総支払法人税額が最も少なくなるのは、「中小企業経営強化税制を適用した税額控除」を行った場合だとわかります。

最終的な節税効果が最も高く、長期的に見ればベストな方法といえるでしょう。

1年目の法人税支払いを減らしたい場合

また、1年目の法人税額が最も少ないのは、「即時償却」を行った場合です。

早期に別の事業や投資を行いたい場合は、即時償却を行うことで、手元に資金を確保できます。

ただし、もし初年度に償却費用よりも利益が少なければ、取得費用を全額償却することができませんから、利益とタイミングを見極めて適用しましょう。

適用時期を翌年に繰り越したい場合

「特別償却」の節税効果は、税額控除より劣りますが、即時償却よりは高くなります。

適用時期を1年繰り越すことができる利点がありますので、初年度の利益が少なく、翌年度に適用したほうが全額償却できる・償却額が多くなる、という場合は、特別償却を選ぶのがいいでしょう。

即時償却・特別償却・税額控除、3つの制度を利用する際の注意点とは?

即時償却・特別償却・税額控除、3つの制度を利用する際の注意点とは?

注意点1:制度によって、適用される中小企業者の定義が異なる

「税額控除」を利用したいときは、資本金の額によって条件が違いますので、注意しましょう。

「中小企業経営強化税制」を適用する場合

資本金3,000万円以下の企業では、特定経営力向上設備などの取得価額の10%相当額が控除されます。対して、資本金3,000万円超1億円以下の企業では、控除額は取得価額の7%相当額です。

「中小企業投資促進税制」の場合

資本金3,000万円以下の企業であれば利用でき、取得価額の7%相当額が控除されます。しかし、資本金3,000万円超1億円以下の企業は、利用できません。

資本金3,000万円超1億円以下の企業が税額控除を利用したい場合は、「中小企業経営強化税制」の適用を受けましょう。

注意点2:対象となる設備が決まっている

即時償却の場合

「即時償却」の適用対象となる設備は2種類あり、

  • 旧モデルと比較してエネルギー効率などが年平均1%以上向上している設備(A類型)
  • 年平均の投資利益率が5%以上見込まれる設備(B類型)

のどちらかです。

業務用の冷蔵庫やサーバー、オフィスに備え付けられた空調や、テレワークで使用するテレビ会議室システムなども対象になります。

特別償却の場合

「特別償却」の対象となる設備は、「中古やリース品を除く事業用設備で、一定額以上のもの」です。対象となる設備についての詳細は、どちらの場合も、国税庁のホームページでご確認ください。

注意点3:「中小企業経営強化税制」を適用するためには、経営力向上計画の提出が必要

中小企業経営強化税制を適用して、「即時償却」または「税額控除」を利用する場合は、設備購入の前に、「経営力向上計画」の認定を受ける必要があります。

また、設備の購入は、計画の認定を受けた年度内に行わなければなりません。

経営力向上計画の認定には、申請から約1カ月程度かかります。申請時には、「工業会などからの証明書」、または「税理士か公認会計士による事前確認書」を準備しなければならず、発行にそれなりの時間がかかるでしょう。

そのため、年度の利益見込みが把握できた時期に制度の適用可否を判断し、書類を準備して経営力向上計画の認定を受け、設備の購入などを行う、というように計画的に行動する必要があります。

【まとめ】3つの税制優遇から最適な制度を選んで利用しよう

3つの税制優遇には、手元に資金を残して次の事業計画などに回せる「即時償却」、利用を1年繰り越せて、初年度の利益が少ないときに節税効果を高められる「特別償却」、直接的な節税効果が最も高い「税額控除」と、それぞれのメリットがあります。

企業活動の状況や、今後の事業計画と照らし合わせて、事業にとって最適な効果が得られる制度を選んで利用しましょう。

節税ハック編集部

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