3つの税制優遇「即時償却/特別償却/税額控除」の仕組みと節税効果の違い

3つの税制優遇「即時償却/特別償却/税額控除」の仕組みと節税効果の違い

既存事業の拡大や新規事業への参入を考えるとき、慎重な判断を求められるのが実行する時期と、それにかける設備投資費用の早期回収です。

特に、中小企業や個人事業主の場合は、その後の事業展開を計画するうえで重要なファクターとなります。

中小企業および個人事業主が、既存事業の拡大や新規事業参入のために設備等を購入した場合、中小企業経営強化税制、または中小企業投資促進税制を適用し、即時償却、特別償却、税額控除のいずれかの税制優遇を受けることができます。

今回は、費用の早期回収が可能となる「即時償却」「特別償却」「税額控除」という3つの税制優遇の仕組みや違いについて、解説します。

この記事でこんなことがわかります。

  • 即時償却、特別償却、税額控除、それぞれの特徴と違い
  • 3つの税制優遇の節税モデル例、最も節税効果が高いのは?
  • 利用の流れと注意点

3つの税制優遇、特徴と違い

3つの税制優遇、特徴と違い

3つの税制優遇である「即時償却」「特別償却」、そして「税額控除」

それぞれ、そのような特徴と違いがあるのか詳しくみていきましょう。

即時償却について

即時償却は、中小企業経営強化税制を適用することで利用できます。

最大の特徴は、事業に使用するために購入した設備等の取得価格全額を、購入した年度に一括償却できることです。その結果、その年の法人税額を大幅に圧縮することができます。

2年目以降はその設備に対する減価償却を費用計上できなくなるため、最終的に支払う法人税額の総額は通常の減価償却処理と同じになります。

しかし、初年度の法人税額が低く抑えられることから手元に資金が残り、次の事業や設備にその資金を回すことができ、その後の事業拡大が可能となるのです。

即時償却適用対象となる設備は2種類。

「旧モデルと比較してエネルギー効率などが年平均1%以上向上している設備(A類型)」、「年平均の投資利益率が5%以上見込まれる設備(B類型)」

どちらかに当てはまる設備です。

具体的には、業務用の冷蔵庫やサーバーなどの設備、オフィスに備え付けられた空調、テレワークなどで使用するテレビ会議室システムなどが対象となります。

対象となる企業や設備の詳細は、国税庁のホームページでご確認ください。

関連記事 : 設備増強、新規事業を始める前に!即時償却のモデル例と注意点を紹介

特別償却について

特別償却は、中小企業投資促進税制を適用することで利用できる税制優遇です。

中古やリース品を除く事業用設備で一定額以上のものを購入した場合に、通常の減価償却に加え取得価格の30%相当額を費用計上することができます。

対象となる設備の詳細は、国税庁のホームページでご確認ください。

また、他の税制優遇にない特徴として、特別償却を適用する年度を1年後ろ倒しにできることが挙げられます。

1年繰り越しを行う場合の会計処理がやや複雑なため、税理士への依頼費用が追加でかかる場合もありますが、企業側の都合に合わせて適用できるのはメリットではないでしょうか。

税額控除について

3つ目の優遇税制である「税額控除」は、購入した設備の取得価格の一定割合相当額を法人税額より控除できる制度です。

資本金が3,000万円以下の企業であれば、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制のどちらを適用する場合でも選択ができますが、資本金3,000万円超1億円以下の企業では、中小企業経営強化税制適用時にのみ選択可能です。

控除できる金額は、中小企業経営強化税制適用時は特定経営力向上設備等の取得価額の10%相当額(※)、中小企業投資促進税制の場合は取得価格の7%相当額となります。

(※) 資本金3,000万円超1億円以下の企業は、特定経営力向上設備等の取得価額の7%相当額。

なお、税額控除の金額が法人税額の20%相当額を超える場合は、法人税額の20%相当額を上限にその年の法人税額より控除されますが、控除しきれなかった部分については1年間の繰り越しが認められています。

3つの優遇税制 節税モデルの違い

3つの優遇税制 節税モデルの違い

ここまで、3つの優遇税制それぞれの仕組みについてご説明してきました。

それでは、「即時償却」「特別償却」「税額控除」のどの制度を利用した場合が、最も節税できるのでしょうか。

資本金3,000万円の企業が取得費用1,000万円、法定耐久年数10年の設備を購入した場合を例に、設備取得1年目の法人税額および最終的に支払う法人税総額を試算してみると以下のような結果となりました。

※ 償却処理前の課税所得は2,000万円とし、10年間変わらないとする

※ 法人税額の税率は、中小法人の実効税率を適用

(単位:万円)

償却方法/税額控除 1年目 総支払法人税額
通常の減価償却を行った場合 375 3,750
即時償却を行った場合 168 3,750
特別償却を行った場合 306 3,681
中小企業経営強化税制を適用し税額控除を行った場合(取得費用の10%相当額を控除) 275 3,650
中小企業投資促進税制を適用し税額控除を行った場合(取得費用の7%相当額を控除) 305 3,680

試算の結果からもわかるとおり、中小企業経営強化税制を適用し税額控除を行ったケースが最も総支払法人税額が少なくなっています。

つまり、節税効果が最も高いといえるでしょう。

しかし、1年目の法人税額は即時償却を行ったケースが最も少なくなっています。

即時償却は、設備取得初年度に一括償却を行うことで法人税額を圧縮するため、浮いた資金を早期に別の事業や設備への投資に回すことができます。

手元に資金を確保しておきたい場合は、即時償却を行うとメリットが大きくなる可能性があります。

反面、設備投資を行った年の利益が償却費用より少ないと、取得費用全額の償却ができなくなるため、適用するタイミングを慎重に見極める必要があります。

特別償却は、節税効果という点では税額控除より劣りますが、適用する時期を1年繰り越すことができるため、設備投資のタイミングを他よりも自由に設定することが可能です。

3つの税制優遇は、いずれも企業活動へメリットをもたらします。

その時の企業活動の状況や今後の事業計画と照らし合わせ、最も企業にとって効果が高いと思われる制度を利用するようにしましょう。

3つの優遇税制 利用方法と注意点

3つの優遇税制 利用方法と注意点

事業へのメリットが高い3つの税制優遇ですが、利用するにはどのような申請や手続きが必要なのでしょうか。

中小企業投資促進税制適用による特別償却または税額控除

中小企業投資促進税制を適用しての特別償却または税額控除は、確定申告で必要書類を提出するだけで利用ができます。

  • 申告者が個人事業主の場合
    • 特別償却を利用する場合は、青色申告決算書の「減価償却の計算」の「㋬割増(特別)償却費」の欄に特別償却の額を、「摘要」の欄に特例名(措法 10 条の3)を記入します。
    • 税額控除を利用する場合は、「中小事業者が機械等を取得した場合の所得税額の特別控除に関する明細書」を確定申告書に添付します。
  • 申告者が「法人」の場合
    • 特別償却を利用する場合は、法人税の確定申告書に「特別償却の付表」(中小企業者等又は中小連結法人が取得した機械等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表)と適用額明細書を添付します。
    • 税額控除を利用する場合は、法人税の確定申告書に「別表」(中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書)と適用額明細書を添付します。

中小企業経営強化税制適用による即時償却または税額控除

中小企業経営強化税制を適用し即時償却、または税額控除を利用する場合は、原則、設備購入の前に経営力向上計画の認定を受けておく必要があります。

経営力向上計画の認定を受けるための手続きは、適用したい設備の種類により異なります。

  • 生産性向上設備(A類型)を取得する場合
    • 設備メーカーを通じ工業会等から制度適用対象の設備である旨の証明書を発行してもらいます。
    • 証明書が発行された設備を記載した経営力向上計画を証明書と一緒に申請し、担当省庁の大臣に認定を受けます。
  • 収益力強化設備(B類型)を取得する場合
  • 事業者が策定した投資計画を税理士、または公認会計士に内容を確認してもらい、事前確認書を発行してもらいます。
  • 事前確認書を取得後、経済産業局に赴き事前確認書の内容について説明を行い、投資利益率に関する確認書を取得します。
  • その後経営力向上計画の申請と認定を受けます。

確定申告を行う際、A類型の場合は工業会の証明書と、経営力向上計画申請書及び計画認定書(いずれも写し)を、確定申告書に添付します。

B類型の場合は工業会の証明書の代わりに、経済産業局が発行する投資利益率に関する確認書を添付します。

なお、経営力向上計画の認定を受ける前に設備を取得した場合でも、取得日から60日以内に経営力向上計画の申請が受理されれば、中小企業経営強化税制を適用できる可能性があります。

しかし、工業会等からの証明書発行や、税理士または公認会計士による事前確認書発行にはそれなりの期間が必要となりますので、中小企業経営強化税制適用を希望する場合は早めに取得しておいた方が安心です。

また、対象となる設備等の取得時期にも注意が必要です。

中小企業経営強化税制を適用したい設備は、経営力向上計画の認定を受けた年度内に購入しなければならない、と定められているからです。

即時償却による節税効果を高めるには、その年度の利益見込みができるだけ正確に把握できた時期に適用可否を判断し、設備の購入等を行う必要があります。

しかし、経営力向上計画の認定には約1カ月程度かかるため、年度末間際に中小企業経営強化税制適用を決め申請を行っても、認定が間に合わない可能性があります。

中小企業経営強化税制を適用するには、事業の現状と今後の見通しについてできるだけ正確に把握し、適用時期を見定めることが求められます。

まとめ

即時償却のこと

総支払法人額税は通常の減価償却を行った場合と同じとなるため、節税効果はあまり期待できません。

しかし、初年度の法人税額を圧縮することで手元の資金に余裕が生まれ、次の事業計画が実行しやすくなり、結果、利益拡大につなげられる可能性があります。

特別償却のこと

税額控除よりも節税効果は薄れますが、初年度に追加償却を行うことで即時償却ほどではありませんが、手元の資金に余裕を持たせることができます。

また、初年度の利益が少ない場合は特別償却の利用を1年繰り越すことができ、より節税効果を高めることが可能です。

税額控除のこと

税額控除は法人税額から直接引かれるため、3つの税制優遇の中で最も節税効果が高くなります。

3つの税制優遇それぞれにメリット・デメリットが存在します。

また、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制、いずれも令和3年3月31日までの適用期限となっています。 事業にとって最適な効果を得るために、それぞれの仕組みや節税効果、手続き方法の違いを理解し、的確に利用するようにしましょう。

阿部倉弘子

阿部倉弘子

大学卒業後、フリーター、OAインストラクターを経てIT企業へ就職。
IT企業就職と同時に始めた一人暮らしで家計管理の難しさを知り、お金について興味を持つ。
保険相談を通じてファイナンシャルプランナーという職業の奥深さを知り、FP2級を取得。
IT企業勤務の傍ら、どんな状況でもお金の不安を感じない人生設計をするガイド役FPとして活動している。

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