年齢を重ねて相続税対策を考え始めたとき、生前贈与を活用して相続財産を減らしておきたいとお考えになる方も多いのではないでしょうか。
生前に財産の一部をあらかじめ渡しておくことで、相続財産を減らし将来課税される相続税を節税することが可能です。
今回は、相続税対策として利用できる、子どもに対する生前贈与の種類と非課税範囲について解説します。
- 相続税と贈与税の税率の比較
- 生前贈与の種類と非課税範囲
- 生前贈与の活用法
目次
相続税と贈与税の税率の比較

相続税と贈与税を比べると、基本的に贈与税の方が税率は高くなる傾向があります。
基礎控除額の金額差が大きく、課税価格による税率の区切りも大きく違います。
なお、贈与税には一般税率と特例税率があります。
親から子への相続の場合、その年の1月1日時点で20歳以下なら一般税率、20歳以上なら特例税率が適用されます。最低税率と最高税率の割合は変わりませんが、課税価格と税率、控除額が大きく異なります。
相続税 | 贈与税(一般税率) | 贈与税(特例税率) | |
基礎控除額 | 3,000万円 +(600万円×法定相続人の数) | 110万円 | 110万円 |
最低税率 | 10% (各法定相続人の取得金額が1,000万円以下の場合) | 10% (基礎控除後の課税価格が200万円以下の場合) | 10% (基礎控除後の課税価格が200万円以下の場合) |
最高税率 | 55% (各法定相続人の取得金額が6億円超) | 55% (基礎控除後の課税価格が3,000万円超の場合) | 55% (基礎控除後の課税価格が4,500万円超の場合) |
出典:国税庁 「贈与税の計算と税率(暦年課税)」「相続税の税率」(令和2年4月1日現在)
出典資料を参考に、それぞれの税の速算表をもとに表にまとめました。
ではなぜ、そのまま相続税を払うのではなく、相続税対策に生前贈与を利用するのでしょうか。
生前贈与を活用すると、相続税が減税できる
相続税よりも贈与税の方が税率は高くなる傾向がありますが、贈与をうまく活用すれば相続税を減らすことができます。
なぜなら贈与税には、非課税で贈与できる枠や、特例を利用して贈与税を減税する方法があるからです。
また、先に贈与しておくことで相続財産が減ることになり、結果的に相続税も減税することができるのです。
生前贈与の種類と非課税範囲

生前贈与にはさまざまな条件があり、条件を満たさないと贈与と認められなかったり、贈与税または相続税が想定より多く発生してしまったりする可能性があるので注意が必要です。
生前贈与をうまく活用して相続税を減らす方法を確認していきましょう。
暦年贈与
暦年贈与とは、その年の1月1日から12月31日までの間に、1人あたり110万円以下の贈与を行うことです。贈与税の基礎控除額は110万円なので、この控除枠を利用して毎年子どもに110万円ずつ贈与すれば、贈与税はかかりません。
たとえば、毎年110万円を10年間贈与すれば合計1,100万円を非課税で贈与できるうえ、相続財産を減らす効果もあります。贈与する子どもの数が増えるほど、非課税の額も大きくなります。
しかし、この暦年贈与には注意点があります。
毎年の贈与を同じ時期に同じ金額で行うと、税務署に「暦年ではなく、最初の年に毎年贈与する約束をした定期贈与である」と判断され、贈与額の総額に対して一括で課税されることがあります。
そのため、同じ時期に同じ金額の贈与をするのではなく金額や時期に変化をつけたり、贈与の契約(こちらも金額や時期をずらす)をしておく、などの工夫が必要となります。
また、暦年贈与中に贈与者が亡くなった場合、相続開始前の3年以内の贈与は相続財産に持ち戻される点も覚えておきましょう。
子どもや孫への結婚・子育て資金等の贈与
20歳以上50歳未満の子どもや孫へ結婚・子育て資金を贈与する場合、贈与税の非課税制度を利用することで、1,000万円まで非課税で贈与することができます。
ただし、この制度は用途が決められており、取扱金融機関に領収証や必要書類の原本を提出したうえで、その金融機関から「結婚・子育て資金非課税申告書」を納税地の税務署長まで提出してもらう必要があります。
また、贈与された子どもや孫が50歳までにその資金を使いきれなかった場合は、残った金額に対して贈与税がかかりますので計画的に使う必要があります。
子どもや孫への教育資金の贈与
30歳未満の子どもや孫へ教育資金を贈与する場合、贈与税の非課税制度を利用し、1,500万円まで非課税で贈与することができます。
都度でも一括でも、1,500万円までなら非課税で贈与可能ですが、贈与された子どもや孫が30歳までに使いきれなかった場合は、残った金額に対して贈与税がかかります。
また、贈与を行ってから3年以内に贈与者が亡くなってしまった場合は、その時点で使いきれていない金額は相続財産に持ち戻しされます。
そのため、贈与金額やいつの時点でいくら教育費に使うか、計画を立てて利用するのが良いですね。
子どもや孫の住宅資金の贈与
20歳以上の子や孫が自宅を新築や購入またはリフォームする際に、住宅資金を贈与する場合、令和3年12月31日までは贈与税の非課税制度を利用して、1,200万円まで非課税で贈与することができます。
なお、購入する住宅の要件によって非課税となる金額が異なりますので注意しましょう。
相続時精算課税制度
この制度は純粋な贈与ではなく、将来相続する財産を前渡しする制度になります。
この制度を使って2,500万円までの贈与を行った場合、贈与した時点では課税されませんが、将来相続が発生した時点で相続税がかかります。つまり、課税時期の繰り延べにあたります。また、贈与する年の1月1日時点で贈与側は60歳以上、受贈側は20歳以上でなければなりません。
子どもや孫が相続発生前に資金を必要としている場合に、使用用途や時期を限定せずに財産を渡せる点ではメリットがあります。
しかし、この制度は複雑で、一度制度を利用すると暦年贈与に戻すことはできないなどデメリットもあります。利用する際には、専門家も交えてよく検討することをおすすめします。
生命保険金の非課税枠
生命保険の満期金や解約返戻金、死亡保険金を受け取った場合、贈与税、一時所得による所得税・住民税、相続税のいずれかの税金がかけられます。どの税金がかかるかは契約者(保険料負担者)と被保険者、受取人との関係によって決まります。
契約者(保険料負担者)と被保険者が同一で受取人が別の場合、被保険者が亡くなること受け取る死亡保険金はみなし財産として相続税の対象となります。ただし、「500万円×法定相続人の数」までは控除され非課税となります。
契約者(保険料負担者)と受取人が異なる場合、生命保険の満期や解約による満期保険金や解約返戻金、被保険者が亡くなることによる死亡保険金を受け取ると、保険料を負担している人からの贈与とみなされ贈与税の対象となります。
贈与税の対象となった場合は、暦年贈与と同様110万円までは非課税となります。
生前贈与の活用法

主に子どもにできる生前贈与の種類と非課税範囲についてみてきました。
では、具体的にどのように活用していけばいいのでしょうか。
基本的には、贈与する資金用途別に特例を利用していくと、非課税で贈与する額を増やすことができます。たとえば、
- 子どもが結婚するなら結婚・子育て資金等の贈与の特例を利用する
- 子どもが自宅を購入したりリフォームしたりするなら住宅資金の贈与の特例を活用する
- 孫の教育資金として教育資金の贈与の特例を活用する
といった方法です。
教育費は年々増加傾向にあり、子育て世代の大きな負担となっています。特例を利用することで1,500万円まで非課税で贈与できますので、有効に活用したいですね。
結婚・子育て・住宅・教育費以外の用途で贈与したい場合は、相続時精算課税制度ならば、課税の繰り延べにはなりますが用途に縛られずフレキシブルに使えます。
相続を待つより贈与したほうが得な場合もある
現金ではなく、資産価値が今後高まると考えられる不動産や株式などは、相続を待たずに贈与した方が得な場合もあります。
なぜなら、贈与税は贈与した時の評価額で税額が決まるため、贈与後にいくら評価額が上がっても、追加で課税されることがないためです。
もし贈与せず、相続時に不動産や株式などの価値が何倍にも値上がりしていた場合は、相続時点の評価額で相続税が課税されることになります。
まとめ
相続税の節税の観点から、生前贈与について基礎的な部分を解説しました。
相続の仕組みやそれにかかる税の計算は複雑ですが、親から子への相続は必ず発生するものです。
生前贈与を上手に使いながら節税し、円滑な相続ができるよう準備をしていきましょう。
ただし、正式な贈与手続きには細かい要件を満たす必要があります。また、税制も頻繁に改正されるので、どの特例をどう活用するか、贈与する金額や時期をどうするかなど、ご自身で判断するのは難しい場合は、専門家に相談されるのが良いのではないでしょうか。