個人事業主の節税対策。自力でできる?税理士へ頼むべき?メリットデメリットを比較

個人事業主の節税対策。自力でできる?税理士へ頼むべき?メリットデメリットを比較

コロナウイルスの影響もあり、社会や経済が急激に変動している中、この先の予測もなかなか立てることができない状況にあります。今後さらに影響が出るかもしれないと、不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。

このような不透明な状況の中、支払う税金はできるだけ抑え、手元にお金を残しておきたいところです。

この記事では、個人事業主が節税できるいくつかの方法を紹介しながら、自力で節税対策をする場合、税金のプロである税理士に依頼する場合それぞれの、メリット・デメリットについて説明します。

この記事でこんな事がわかります。

  • 節税とは何か
  • 個人事業主が自力で節税対策をするメリット・デメリット
  • 税理士に頼むメリット・デメリット

そもそも節税とは何か

節税とは

個人事業主は、1年間に発生した課税所得金額について毎年確定申告をおこない、その金額に応じた「所得税・住民税」や「個人事業税」、「消費税」などを支払う必要があります。これらの税金の支払いをできるだけ減らすことが「節税」です。    

節税において、一番重視すべき金額は「課税所得金額」です。「所得税」はその年度の課税所得金額をもとに、「住民税」「個人事業税」は前年の課税所得金額をもとに計算されます。

つまり、「課税所得金額」を減らすことができれば、支払う税金も抑えることができるのです。

その年の所得税を出す計算方法は以下です。

総収入金額-必要経費-各種控除=課税所得金額

課税所得金額×税率-所得税控除額=所得税

例えば、課税所得金額が5,000,000円の場合、所得税額は以下のようになります。

5,000,000円×0.2-427,500円=所得税額572,500円

もし、この課税所得金額からさらに30万円の必要経費・控除を算入した場合、最終的な課税所得金は470万円、所得税額は51万2,500円となります。

30万円の必要経費・控除を算入しない場合と比べ、6万円節税されます。

■所得税の速算表

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで              23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円 から39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円

※ 出典:国税庁ホームページ「No.2260 所得税の税率」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm

つまり、課税所得金額をできるだけ減らすには「必要経費を増やす」「各種控除を活用する」の2つがポイントになります。

個人事業主が活用できる経費計上・所得控除

それでは、個人事業主が活用できる節税対策にはどのようなものがあるのでしょうか。

代表的な経費や各種控除についてみていきましょう。

青色申告

個人事業主は、白色申告で確定申告をおこなうか、青色申告をおこなうかを選択できます。

白色申告に比べ、青色申告で確定申告をおこなう場合事前の届出が必要であったり、青色申告決算書を確定申告書と一緒に提出しなくてはいけなかったりと、手間がかかりますが、控除や必要経費と認められる幅が広がります。

一番大きな控除として、青色申告特別控除が挙げられます。

令和2年以後の所得税から、正規の簿記の原則に従って記帳している場合、55万円の青色申告特別控除が適用できます。電子申告(e-Tax)を利用して確定申告書を提出した場合、青色申告特別控除は65万円となります。

正規の簿記の要件を満たさないでも、10万円の青色申告特別控除が受けることができます。

経費として計上できるものとしては、30万円未満の固定資産の取得価額全額や、青色事業専従者給与があります。

またその年に生じた損失を、翌年以後3年間繰り越して翌年以後に発生した所得額(黒字の金額)と相殺することができます。未回収の売掛金が貸し倒れになりそうな場合の金額について、引当金を必要経費に算入することもできます。

このように、青色申告にはさまざまな特典があります。

※ 出典:国税庁ホームページ「青色申告制度

経営セーフティ共済

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、取引事業者が倒産した際に連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。掛金は月額5,000円~200,000円まで自由に選択でき、必要経費に算入できます。

取引事業者が倒産した場合、無担保・保証人なしで掛金の最高10倍(最高8,000万円)まで借入れができます。

共済契約を解約した場合も、解約手当金を受け取れます。12か月未満の解約は掛け捨てになりますが、掛金を12か月以上納付していた場合は掛金総額の8割以上、40か月以上納付していた場合は掛金の全額が戻ります。

※ 参考:中小機構HP「経営セーフティ共済

小規模企業共済等掛金控除

小規模企業共済等掛金控除とは14ある所得控除の一つで、1年間に支払った掛金の全額が控除されます。この控除枠を活用することで毎年の節税効果が高くなります。

該当する掛金は以下です。

  • 小規模企業共済
  • 個人型確定拠出年金(iDeCo)

どちらも、社会保障の恩恵を受けることが少ない個人事業主等のための、退職金準備や公的年金を補う制度です。

小規模企業共済は、個人事業主等が事業を廃業した場合や退職した場合に備えてあらかじめ積み立てておき、廃業・退職した時に共済金を受け取れる、国が作った経営者の退職金制度です。

掛け金は月額1,000円から70,000円までの範囲で、500円単位で自由に設定できます。

また掛金の範囲内で、事業資金などを借り入れることができる「契約者貸付制度」や事業の廃止を円滑に行えるように「廃業準備貸付制度」もあります。

※ 参考:中小機構HP「小規模企業共済

個人型確定拠出年金(iDeCo)は、加入者自身が掛金を運用し、将来の年金受取金額が運用実績によって変わる年金制度です。運用リスクは加入者自身が負うことになります。

掛け金は、月額5,000円以上68,000円の範囲で、1,000円単位で自由に設定できます。

国民年金基金または付加保険料に加入している場合は、その合算額となります。

加えて、iDeCoは掛金が全額所得控除となる他、運用で得た利息や利益が非課税、運用した結果のお金を引き出す際も一定額までは非課税となるなど、税制優遇にすぐれています。

ただし、原則60歳までは途中引き出しはできません。

※ 参考:iDeCo公式サイト「iDeCoってなに?

その他の所得控除

個人事業主は「事業をおこなう個人」という位置づけのため、「個人」に対する所得控除も受けることができます。

具体的には、生命保険料控除や地震保険料控除、医療費控除などが挙げられます。

節税対策にはサポートが必要?

節税対策にはサポートが必要?

このように、個人事業主が節税に活用できる必要経費や所得控除は数多くあり、それぞれに満たすべき要件やどの程度節税できるかが異なります。

しかし、それぞれの要件や節税効果を確認し、自分のビジネスに合った節税を選ぶことは自力では難しいものなのでしょうか。

ここからは、個人事業主が自力で節税をおこなった場合、税理士にサポートを依頼した場合それぞれの、メリット・デメリットをみていきましょう。

個人事業主が自力で節税対策をおこなうメリット

まず、個人事業主が自力で節税対策をおこなうメリットとして、自分のビジネスに必要な経理の知識を身につけることができることが挙げられます。

例えば、青色申告をおこなうには複式簿記の知識が必要になります。その他にも、自分で節税に活用できそうな制度を調べたり、会計ソフトや確定申告用ソフトを使ったりすることで、最新の政策や税務に関する知識も身につきます。

経理や税務の知識を身につけること、最新の政策について知っておくことで、自分のビジネスや周囲の状況への理解が深まり、必要な決断や判断を素早くおこなうことができるようになります。

また、確定申告書などの会計書類の作成を税理士に依頼する費用がかからないため、まだ事業収入が少ない時などは余計な出費を抑えることができます。

個人事業主が自力で節税対策をおこなうデメリット

個人事業主が自力で、正しく節税をおこなおうとするには、経理や税務に関する一定の知識が必要となります。経理や税務に関する知識が浅い場合、経費に含めてはいけないものを計上してしまい、税務署からペナルティが課せられる可能性があります。

事業にかかわる費用は、基本的に経費としてみなされますが、家事按分のように線引きが難しい必要経費もあります。

自宅などで仕事をする個人事業主の家賃代、電話代、水道光熱費など、事業費・生活費と明確に分けることができない場合に、ある一定の割合で事業費として必要経費に算入することを家事按分と言います。

家事按分を漏れなく算入することで必要経費を増やすことができますが、その割合や仕分けの方法などある程度の経理知識が必要となります。

万が一、税務署から指摘を受けた場合は、足りなかった分の税金を支払うだけではなく、追徴課税も課せられることもあります。

また、節税に活用できる制度や補助金、政策などは日々更新されていきますが、更新されたことやその内容は、新聞やネットなどから自力で収集する必要があります。

自らの事業をおこないながら、国や地方自治体などが発表する情報を常に収集し、節税に活用できるかを判断するのは、非常に手間と時間がかかります。

税理士にサポートを頼むメリット

それでは、税務のプロである税理士にサポートを依頼した場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。

税理士は、税務に関する業務を専任でおこなう専門家です。専門家としての豊富で深い知識をもとに、依頼者のビジネスに合った税制優遇や節税方法を考えてくれます。

また、確定申告に必要な書類の作成も任せることができますし、万が一税務調査が入ったとしても、その場に立ち会って必要な説明をおこなってくれます。

日々、新設・更新される税制優遇や補助金の情報も、専門家としていち早くキャッチアップし、必要であれば活用の提案をしてくれます。自力で情報収集する手間が省けるため、本業に専念することができます。

税理士にサポートを頼むデメリット

税理士に依頼をすると、事業に合った節税を手間なく活用できる代わりに、顧問料や申告費用、万が一の税務調査立会いに伴う費用がかかります

現在、すべての税理士に適用される税理士報酬規程がないため、税理士によって税理士報酬は異なります。サポートを依頼する業務の範囲や、今の事業の年商などによっても税理士へ支払う報酬額は異なってきます。

税理士にどこまでの業務を依頼するかは事業主が決められますが、経理業務のすべてを任せっきりにしてしまうと、財務状況の全体像が把握できなくなり、ビジネスにおける金銭感覚や判断力が鈍る可能性があります。

まとめ

個人事業主が節税のために活用できる税制優遇や補助金は、数多くあります。

事業主自身が税金や会計の知識を身につけ、節税する方法を自力でみつけることは可能ですが、常に最新情報を収集するには手間と時間がかかります。節税することに力を入れすぎ、事業にさく時間が取られてしまうのでは本末転倒です。

一方、税理士に頼むメリットは、税金のプロである税理士が自分に合った節税対策を行ってくれることで、事業主は事業に専念できることです。

ただ、税理士へ支払う費用がそれなりにかかるため、節税対策ができたとしても税理士報酬が負担となるケースもあります。 まずは自分にあった節税対策を自力で考えてみた上で、多少のコストをかけてでも本業に専念したい方、さらにしっかり節税を行いたい方は税理士に依頼するのが良いのではないでしょうか。

菅沼和歌子

菅沼和歌子

香川県出身。旅行が好きでクルーズの旅行会社に勤務し、総合旅行業務取扱管理者を取得。
結婚・出産を機に世の中でお金がどのように動いているのか興味を持ち、生命保険会社に入社し勉強。
1級ファイナンシャルプランニング技能士を取得。退職後、証券外務員1種を取得。
有意義な人生を送るためのサポートができるよう、総合的に相談に応じられるFPを目指している。

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